• 料理家の大原千鶴さんに、ひな祭りのお祝いの献立を教えていただきました。お祝いの気持ちを込めた、ある日の食卓。旬の食材を、あの人の大好物を。それぞれのごちそうに、大切な家族の思い出があります。
    (『天然生活』2013年2月号掲載)

    大原千鶴さんの、ひな祭りの祝いの食卓

    ちらしずしと、はまぐりのしんじょ、旬野菜の豆腐あえ。子どもができてから、ひな祭りには必ず食卓にのせるごちそうです。

    「上ふたりは男の子なので、本当なら、ひな祭りは関係なかったはずなんですけれど。ひな人形こそ飾りませんでしたが、ごはんだけは必ず、ひな祭りらしいものを用意していましたね」

    そして、3人目に女の子が生まれてからは、おひなさまを眺めながらのお祝い膳となりました。

    京都でも有数の料理旅館「美山荘」の次女として生まれた大原さん。やはり、幼いころから旬の行事を大切にした食卓に、自然と親しんでいたのでしょうか。

    「それが、そうでもないんです。あくまで、心を尽くした旬のお料理は、“お客さまのもの” という感覚でしたから。むしろ、嫁いでから、行事ごとのお料理を家庭で楽しむことを知りました」

    家族で味わう季節のごちそうは、気楽につくるのが一番だと大原さんは話します。

    たとえば、しんじょ。以前は魚のすり身と山いもでつくっていました。けれど、いまは手間を省き、はんぺんを使います。それは、行事を無理なく楽しみたいから。

    ハードルを上げてしまうことで、行事自体を面倒に感じ、放り出さないようにするためなのです。

    「日々の生活はあわただしく、そんな行事に心を砕く余裕なんてないと、皆さんおっしゃるかもしれません。ひな祭りや端午の節句、そんなものは、たしかに、しなくても困ることはないんです。でも、『大変やから』と、どんどん何かをほどいていってしまったら、結局、何の楽しみも残らなくなってしまうんじゃないかしら」

    季節の行事を知っていると、なんだか、それを済まさなければ季節がまわっていかないような気になる。

    そういう事柄が増えていくことが、日々の生活を豊かに、気持ちを前向きにしてくれるのだと、大原さんは考えています。

    「毎年、続けている季節の行事があると、たとえ嫌なことがあって気持ちが進まなくても、『今日は、あれをせんとならん』なんて、自然と体が動いて、心がいつしか前向きになっていくものなんです。私は、家庭の行事って、“それをすること” だけが大切なのではなくて、その過程で、心が前向きになることに価値があるのだと思っています。日々をていねいに淡々と過ごすこと、それこそが実は幸せなのだと知ることに、意味があると思うんですよね」

    画像: 大原千鶴さんの、ひな祭りの祝いの食卓

    ちらしずしのつくり方

    ちょっぴり甘めのすし飯と、のりを混ぜ込んでしまうこと。それが、京都ならではのつくり方。

    材料(4人分)

    ● かんぴょう7g
    ● 干ししいたけ2枚
    ● にんじん5cm(50g)
    ● 干ししいたけのもどし汁100mL
    ● 酒大さじ1
    ● 砂糖大さじ2
    ● 濃口しょうゆ大さじ2
    ● れんこん5cm
    ● A
    ・だし汁1/4カップ
    ・米酢大さじ1
    ・砂糖大さじ1
    ・塩小さじ1/2
    〈錦糸玉子〉
    ・卵4個
    ・だし汁1/2カップ
    ・塩小さじ1
    ・片栗粉大さじ1と1/2
    ● 車海老8尾
    ● 焼きのり2枚
    ● こごみ8本
    ● B
    ・だし汁100mL
    ・薄口しょうゆ小さじ2
    〈酢飯〉
    ・米2合
    ・昆布6cm角1枚
    ・水420mL
    〈すし酢〉
    ・米酢大さじ4
    ・砂糖大さじ3
    ・塩小さじ1
    ● 木の芽適宜

    つくり方

     かんぴょうはさっと洗い、塩小さじ1(分量外)でもむ。弾力が出てきたら塩を洗い流し、やわらかくなるまでゆでてざく切りにする。干ししいたけは100mL強の水でもどす。やわらかくなったら、軸を落として、それぞれ4等分する(もどし汁はとっておく)。にんじんはせん切りにする。

     フードプロセッサーに1のかんぴょうを入れて粗みじんにしてから、干ししいたけも加え、同じくらいの大きさのみじんにする。

     小鍋にを入れ、干ししいたけのもどし汁、酒、砂糖を入れて中火で5分煮てから、濃口しょうゆとにんじんを加え、10~15分、煮汁がなくなるまで煮る。鍋に入れたまま冷ます。

     れんこんは皮をむいて縦半分に切り、酢を少々入れた湯でゆがく。粗熱が取れたら、飾り用に花形に切り、5mm幅で8枚分を用意する。残りはスライスする。両方を、Aを合わせた漬け汁に5分ほどひたしたら、飾り用以外は粗みじんに切る。

     錦糸玉子をつくる。卵をボウルに割りほぐし、残りの材料を加えてよく混ぜ、卵液をつくる。フライパンに薄くサラダ油(分量外)をひき、おたま1杯分を流し、両面を焼いて取り出す。これを6〜8枚つくり、焼き上がったら重ねて丸め、細く切って錦糸玉子にする。

     車海老は背わたを取る。塩と酒(分量外)少々を入れた湯で5分ほどゆで、そのまま鍋の中で冷ます。冷めたら、取り出して殻をむく。

     焼きのりは4等分にして袋に入れ、上からもんで細かくする。

     こごみは熱湯で2分ゆで、Bに5分ほどひたしておく。

     酢飯をつくる。米は炊く30分前にといでざるにあげておく。分量の水と昆布を入れて炊く。

    10 すし酢の材料を耐熱容器に入れ、砂糖が溶けるまで軽くレンジにかける。炊き上がったごはんをボウルにあけ、すし酢をふりかけて、ボウルを回しながら全体に切るようによく混ぜる。乾燥しないように、かたくしぼったぬれぶきんをかけておく。

    11 酢飯に汁けをきった(飾り用はのぞく)、7を加えてよく混ぜる。

    12 器に盛り、の飾り用のれんこんをのせ、仕上げに木の芽をのせる。

    にんじん葉の豆腐あえのつくり方

    木綿豆腐のあえ衣なら、香りの強いにんじん葉にも負けません。にんじんの歯触りが、心地よいリズムを生み出します。

    材料(4人分)

    ● にんじんの葉1わ(約80g)
    ● にんじん(細め)約3cm
    ● 薄口しょうゆ小さじ2
    〈あえ衣〉
    ・木綿豆腐(水けをしっかりきる)1/4丁(100g)
    ・薄口しょうゆ小さじ2
    ・練りごま、米酢、砂糖各大さじ1
    ・白すりごま大さじ2

    つくり方

     にんじん葉は、洗ってからさっとゆで、水にとる。1cm長さに切り、水けをしぼる。

     にんじんは、やわらかくなるまでゆで、2mm幅の輪切りにする。にんじん葉、にんじんとも、薄口しょうゆをまぶしておく。

     あえ衣の材料をボウルに合わせ、泡立て器などでよく混ぜる。を入れてよくあえる。

    * 関西では “にんじん葉” として売られているやわらかなにんじんの葉。ない場合は、葉付きにんじんの葉の部分を使う。その場合、葉がかたいので3mm長さに切る。

    はまぐりしんじょのつくり方

    はんぺんを使えば、しんじょも、ここまで手軽につくれます。ふんわりやさしい食感は、手づくりならではのおいしさです。

    材料(4人分)

    ● はまぐり4個
    ● はんぺん1枚(100g)
    ● 酒大さじ2
    ● 卵2個
    ● だし汁3カップ
    ● A
    ・酒小さじ1
    ・塩小さじ1/4
    ・薄口しょうゆ小さじ2
    ・菜の花8本
    ・しいたけ4枚
    ・木の芽適量

    用意するもの

    ● 牛乳パック2本

    つくり方

     しんじょをつくる。はまぐりは、たわしできれいに殻を洗う。酒と一緒に小鍋に入れて火にかけ、口が開いたら身を取り出して粗みじん切りにする。

     フードプロセッサーにの煮汁、はんぺん、卵を入れてなめらかになるまで攪拌する。そこにはまぐりのみじん切りを入れ、木べらなどで全体をさっと混ぜる。

     牛乳パック2本をそれぞれ底から高さ3.5cm長さにカットしてを入れ、表面をなめらかにする。

     湯気の上がった蒸し器にを入れ、強火で20分蒸す。

     鍋にだし汁を入れ、Aで味をととのえる。

     菜の花はさっとゆでて水にとる。水けをしぼってからのだしを少し取り分けてひたしておく。しいたけは石づきを取り、ひっくり返して傘の部分に塩少々(分量外)をふってグリルかオーブントースターで焼く。傘の部分に水分が浮いてきたら取り出す。

     が蒸し上がったら斜め半分に切ってお椀に入れ、の菜の花としいたけを入れる。温めたのだしを張り、木の芽を添える。

    * しんじょは、あらかじめつくっておき、盛りつけるときにレンジで温めてもよい。

    ひちぎりのつくり方

    画像: ひちぎりのつくり方

    いまでは、手づくりする家も少なくなった、ひな祭りの伝統菓子。電子レンジを上手に使えば、実はこんなに簡単です。

    材料(10個分)

    ● 乾燥よもぎ1g
    ● 上新粉60g
    ● 白玉粉40g
    ● 水110mL
    ● 砂糖20g
    ● 塩ひとつまみ
    ● 熱湯50mL
    ● 食紅ごく少量
    ● 粒あん(市販品)80g

    つくり方

     ボウルに乾燥よもぎと熱湯を入れ、もどす。よもぎがもどったら、キッチンペーパーを2枚重ねにしてこし、軽く水けをしぼっておく。

     ガラスなどの耐熱ボウルに上新粉と白玉粉を入れ、分量の水を加える。粉が水分を吸ったら、砂糖、塩を加えて木べらでよく混ぜ合わせ、なめらかにする。ラップをかけ、電子レンジ(600W)で1分半加熱する。

     のボウルを取り出し、全体が均一になるように混ぜる。生地がかたくて混ざりにくければ、水を少し足してもよい。

     をさらに1分加熱する。取り出して均一に混ぜ合わせたら、もう1分加熱し、同様に混ぜ合わせる。全体に火がとおったようになればよい。半量ずつに分け、半量にのよもぎを加え、水にぬらしたすりこ木で色むらがなくなるまでつきながら混ぜる。残りの半量には、少量の水で溶いた食紅を少しだけ入れ、同様に色むらなくつき混ぜる。

     をそれぞれ直径3cm程度に丸め、オーブンシートにのせて冷ます。上新粉(分量外)をつけた手で丸めてつぶし、一端を指でつまむ。上に丸めた粒あんをのせる。



    〈撮影/川村 隆 取材・文/福山雅美〉

    大原千鶴(おおはら・ちづる)
    奥京都、花背の料理旅館「美山荘」の次女として生まれる。幼いころから料理の心得を学び、現在は京都伝統の味をつくりやすい家庭料理として紹介し、人気を得ている。
    https://c-foodlab.cocolog-nifty.com/

    『大原千鶴のすぐごはん 冷蔵庫にあるもので』(大原千鶴・著)
    『大原千鶴のすぐごはん 冷蔵庫にあるもので』(大原千鶴・著)

    『大原千鶴のすぐごはん 冷蔵庫にあるもので』(大原千鶴・著)

    ※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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