(『「どっちでもいい」をやめてみる』より)
パン屋が選ぶパン皿とトースター
スタイリストの高橋みどりさんが持っていたヴェネツィアの白皿をもとに陶芸家の伊藤環さんが制作した角皿が、わが家の定番パン皿。四角い角皿は和風にころびがちですが、この器は絶妙の塩梅です。
「どうしてパン屋をやろうと思ったのですか?」というのは、くり返し聞かれた質問です。今告白すると、本当の答えは「ただ、何となく」だったんです。
「自分の住む街に、美味しいパン屋を作りたくて」とたびたびお答えしてきましたが、これはあとからつけ足した模範回答で、本当はふと沸き起こった「思いつき」だったんです。大人になった私は、すっかり理論武装してしまいました。
でも最近は、この説明しようのない「何となく」が、実は本当に求めていること、自分でも気づいていない深いところにある真実かも……と感じています。
これからは、「理由なんてなくていい、上手く説明できなくてもいいんだ」、美味しいパンを食べながら、ピンとくる直感に正直に、生きていこうと思っています。
食パンはもちろん、クロワッサンもチーズトーストも、理想の焼き上がり。「お餅も美味しく焼けるようにしてほしい!」とバルミューダさんにお願いしたところこちらも大満足な仕上がりになっていました。
扇風機が大ヒットした「バルミューダ」という会社は、私たちが住む武蔵野市に本社があると知り、嬉しくなり手紙を書きました。
そうしたら「世界中を放浪して、ミュージシャンになろうと思っていた」という社長さんが店を訪ねてきてくださり、「次に考えているのはトースターなんです」とびっくりなお話。厨房の見学やパンの提供など、全面協力を申し出たのは言うまでもありません。
でき上がったトースターも大ヒット。「土砂降りの雨の中のバーベキューで、焼いたパンが美味しかったのはなぜなんだ」と、その疑問が商品開発につながったんだとか。
いいものが生まれるとき、そこには必ず物語がありますね。パン屋が自信を持ってすすめるトースターです。
<撮影/濱津和貴>
本記事は『「どっちでもいい」をやめてみる』(ポプラ社刊)からの抜粋です
引田かおり(ひきた・かおり)
夫の引田ターセンと共に、2003年より東京・吉祥寺にある「ギャラリーfève」とパン屋「ダンディゾン」を営む。さまざまなジャンルの作り手と交流を深め、新しい魅力を引き出し、世に提案していくことを大きな喜びとしている。著書に『私がずっと好きなもの』(マイナビ)、ターセンとの共著に『しあわせな二人』『二人のおうち』『しあわせのつくり方』(すべてKADOKAWA)がある。
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「どっちでもいい」をやめて、人まかせにせず、自分の「好き」を優先させると、人生を気持ちよく歩けます。本書では、正直な気持ちを表現できるようになれるヒントを、文章と写真で紹介。引田かおりさんが選び抜いた器や洋服、長年集めたかご、ガラス、暮らしの工夫も必見です。