4月は新入学や新入社などあたらしいことが山盛りで、はじまり感に溢れています。そこで今月は、はじまりの大元「あかちゃん」をテーマに選んでみました。
『ちいさなあなたへ』
(文:アリスン・マギー 絵:ピーター・レイノルズ 訳:なかがわちひろ 主婦の友社)
「あのひ、わたしは あなたの ちいさな ゆびを かぞえ、その いっぽん いっぽんに キスを した。」
おかあさんの、生まれたばかりのあかちゃんにたいする、深い愛情が表現されます。リズム、選ばれたことば、どれをとっても美しく、引き込まれます。
「みちを わたるとき、あなたは いつも わたしの てに しがみついてきた。」
自分にしがみついてくる子どもは、いとおしいけれど、守らなければならない存在への責任も感じ、不安になることもあるはずです。
すやすや眠る子どもを見ながら、おかあさんが思い描く夢は、きっと、どんなおかあさんも見る夢。
いつかこの子が大きくなったら、湖に飛び込み、ほのぐらい森に迷い込み、喜びに目を輝かせる。
そして大人になって、誰かと恋をして、自分の背にあかちゃんを背負い……。
ママではなく「わたし」、あかちゃんではなく「あなた」。
おかあさんが自分のあかちゃんに語りかけるにしては、少し緊張感のある人称のようにも思います。しかしこのことがいい距離となって、だれもが自分と母親の、自分と子どもの物語だと感じることができるのではないでしょうか。
わたしはこの絵本を読むと、かつて母はこんな思いで自分を見守ってくれていたのかな、なんて考えます。母が願ったような大人にならなくちゃ、なんて、いまさらながら、思うのです。
『あなたって ほんとに しあわせね!』
(作:キャスリーン・アンホールト 訳:星川奈津子 童話館出版)
「はじめはね、ひとりだけの わたしだったの。おかあさんと おとうさんと わたしだけ。」
それなのに、「つぶれた いちごみたい!」なおとうとが生まれます。
おとうとが生まれるなんて、「あなたって ほんとに しあわせね!」ってみんな言うけれど、「わたし」はそうは思えません。
だってあかちゃんは、いっしょに遊べないし、すぐ泣くし、おかあさんをとられちゃったから。
あかちゃんになりたい、と思っていた「わたし」でしたが、ある日、すっかりくたびれ果てたおかあさんのひとことで、変わります。
ふたりめの子どもが生まれたことで、上の子があかちゃん返りしちゃったというのは、よく聞くエピソード。かくいうわたしも、おとうとが生まれたことでヤキモチを焼き、いじわるした覚えがあります。
かつてのいじわるは、もう取り戻せませんが、おかあさん(おとうさんでもいい)は、この絵本みたいに、おねえちゃん(おにいちゃんでもいい)に言葉がけしたらいいと思うのです。
どんな言葉がけだったか、ぜひ本書をお読みいただけば! 役立つこと請け合いです。
『おへそのあな』
(作:長谷川義史 BL出版)
「ちいさな ちいさな あかちゃん。
いまは まだ
おかあさんの おなかの なか。
だけど……。
おかあさんの
おへその あなから
みえる。
みえる。」
生まれてくる前のあかちゃんが、おかあさんのおへその穴からのぞいています。
おにいちゃんがロボットをつくっているところ、おねえちゃんがお花に水をやるところ、おとうさんが歌をうたっているところ。
見てないときにも、おへその穴から、ごはんの匂いをかいだり、家族のおしゃべりの声を聞いたり。
それから風の音、鳥の声も。
そしてあかちゃん、寝静まった家族に、おへそのあなから言うんですよ。
聞こえないように、言うんです。
何を言うかは、本書を開いてみてくださいね。
あかちゃんが、おへその穴からこれから出て行く世界を見ているわけはないのですが、それでもこの感覚、すごくよくわかりますよね。
おかあさんとつながったおへそを通して、外の様子を伺ったり、感じたり。
これから生まれ出てくるあかちゃんには、この家族のように、暖かく迎えてくれる家族がいますように。
生まれてくるのが楽しみになるような世界を、作っていかなくちゃ、ですね。
長谷川未緒(はせがわ・みお)
東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。
<撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>