• 絵本好きの編集者・長谷川未緒さんが、大人も子どもも楽しめる、季節に合わせた絵本を紹介する「ずっと絵本と。」。今回は番外編、それぞれ、絵本の編集者、イラストレーターから絵本作家になった麦田あつこさん森山標子さんへのインタビューをお届けします。

    毎月2回、3冊ずつ絵本を紹介しているこのコーナー。今回は番外編として、『ねむねむ こうさぎ』『こうさぎ ぽーん』で絵本作家デビューを果たした麦田あつこさんと森山標子さんにお話を伺いました。絵本を作ってみたい人にも、参考になるお話もりだくさんでお届けします。

    敏腕編集者が惚れ込んだ、かわいいうさぎの絵

    画像: 『ねむねむ こうさぎ』、『こうさぎ ぽーん』(麦田あつこ・文 森山標子・絵 ブロンズ新社)

    『ねむねむ こうさぎ』、『こうさぎ ぽーん』(麦田あつこ・文 森山標子・絵 ブロンズ新社)

    文を手がけた麦田さんは、絵本の編集者です。かがくいひろしさんの「だるまさん」シリーズや、鈴木のりたけさんの「しごとば」シリーズヨシタケシンスケさんの発想絵本シリーズなど、数々のロング・ベストセラーを手がけてきました。

    作家デビューとなった本作も、編集者視点で始まったそう。

    麦田さん:

    「森山さんの描くうさぎが、かわいくて魅力的で。デフォルメされておらず自然で、手描きの温かみがあって。こういう絵を描く方に、子どもの本の世界に来てほしいと思い、最初は編集者として何か作れないか考えていました」

    フリーランスになり、以前勤めていた出版社の編集長から「赤ちゃん絵本のテキストを書いてみたら」と言われたことがきっかけで、森山さんと一緒に作品を作れるかもしれないと思うようになったという麦田さん。いっぽう森山さんは、最初は絵本の絵を描ける気がしなかったのだとか。

    森山さん:

    「絵本を普段から好んで読むタイプではなかったので、イメージが湧きませんでした。でも麦田さんに、絵本の絵は挿絵ではなく絵と文でひとつの作品になると教えてもらって、それならやってみたいと思いました」

    赤ちゃんとおかあさんの特別な時間を描いた絵本に

    画像: 『ねむねむこうさぎ』より。生き生きと描けるのは、うさぎと暮らしている森山さんだからこそ。

    『ねむねむこうさぎ』より。生き生きと描けるのは、うさぎと暮らしている森山さんだからこそ。

    こうしてはじまったふたりの絵本制作ですが、最初は編集者視点が邪魔をして、麦田さんは文が書けなかったといいます。

    麦田さん:

    「森山さんの絵を生かしたいと思うあまり、迷走してしまいました。子うさぎが花びらのように集まっている絵とか、森山さんの絵には特長的な構図のものが多くあるのですが、それをどうにかして絵本に取り入れたいと、絵に合わせて文を書こうとしてしまったからです。編集を担当してくれたブロンズ新社の佐々木さんから、もっとシンプルに、赤ちゃんとおかあさんの特別な時間を丁寧に描いては、とアドバイスをもらったことで道筋が見えました」

    ようやく寝かしつけたあかちゃんが目を覚まして泣き出したときのことや、はしゃいで駆け回る子どもの様子など、麦田さん自身の子育ての経験が存分に生かされ、文ができあがりました。

    画像: 『ねむねむこうさぎ』より。泣き出す子うさぎと途方にくれるおかあさんうさぎ。

    『ねむねむこうさぎ』より。泣き出す子うさぎと途方にくれるおかあさんうさぎ。

    絵本の絵ははじめて描く森山さんにも苦労がありました。

    森山さん:

    「何ページも同じキャラクターを描けるのか不安になったり、あるページでは子うさぎだけ、別のページではおかあさんも出てくるなど、カメラワークがどうなっているのか混乱したり。難しかったのですが、麦田さんと佐々木さんの判断にお任せして、とにかくうさぎをかわいく描くことに集中しました」

    赤ちゃんにやさしい絵本、目標はシリーズ化

    画像: 『こうさぎ ぽーん』より。躍動感のある子うさぎ。

    『こうさぎ ぽーん』より。躍動感のある子うさぎ。

    何度もオンラインで打ち合わせを重ねてできあがった2冊は、子育て中の方や、うさぎと暮らしている方など、幅広い読者を得ています。

    麦田さん:

    「私はふだん絵本の編集者をしているので、誠実で、真摯に絵と向き合われている森山さんに子どもの本の世界に入ってもらえてうれしいです。編集の佐々木さんの舵取りで絵本が形になっていくのを、書き手の立場で経験し、普段自分がやっている編集者という仕事の重要性を、再認識できたのもよかったですね。子うさぎのモデルにした息子も、絵本を気に入ったようです」

    森山さん:

    「周りからおめでとうと言ってもらえたり、海外のファンの方からも反応があったりと、反響に驚いています。この子うさぎを主人公に、たくさんシリーズを出せたらうれしいです。友だちができる編とか、あったらおもしろいだろうな、って思います」

    画像: 『こうさぎ ぽーん』より。ぷりっとしたお尻がたまらない。

    『こうさぎ ぽーん』より。ぷりっとしたお尻がたまらない。

    本のサイズは約15cmと小ぶりなので、おでかけにも便利。赤ちゃんがおもちゃのようにつかんでも壊れない丈夫なボードブックで、なめてもかじっても身体に害のないベジタブルインクを使っているそう。

    赤ちゃんが初めて出会う絵本として、プレゼントにもおすすめですし、日常の中にある親子の微笑ましい瞬間を描いた本作は、大人が読んでもやさしい気持ちになれます。

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    画像1: 赤ちゃんにやさしい絵本、目標はシリーズ化

    麦田あつこ(むぎた・あつこ) 文
    子どもの本の編集者。ブロンズ新社勤務を経て、フリーランスに。編集のかたわら、絵本制作に挑戦し、本作で作家デビュー。

    画像2: 赤ちゃんにやさしい絵本、目標はシリーズ化

    森山標子(もりやま・しなこ) 絵
    うさぎを描くイラストレーター。うさぎの魅力を軽やかに捉えた絵には、海外にもファンが多い。保護うさぎのためのチャリティー活動なども。



    画像3: 赤ちゃんにやさしい絵本、目標はシリーズ化

    長谷川未緒(はせがわ・みお)
    東京外国語大学卒。出版社で絵本の編集などを経て、フリーランスに。暮らしまわりの雑誌、書籍、児童書の編集・執筆などを手がける。リトルプレス[UCAUCA]の編集も。ともに暮らす2匹の猫のおなかに、もふっと顔をうずめるのが好き。

    <撮影/神ノ川智早(プロフィール写真)>



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