• 京都に根をはって暮らす人は、強くたくましく、しなやかで、おもしろい。人とつながり、自分らしく暮らす、魅力的な人に話を聞く、編集&ライター・宮下亜紀さんのコラム。京都には小さな和菓子屋さんがいまも根ざしていて、季節を知らせてくれます。「おやつaoi」の土田葵さんがつくるのはまさに、そんな日常のおやつです。

    葵祭も祇園祭もなくなると、ただ時間だけが過ぎていくよう。出かけることもままならない中、季節に気づかせてくれるのが、花とだんご。花よりだんごと言いますが、京都ではまるで郵便局みたいに、町角に小さな和菓子屋さんがたたずんでいます。
    お祭りや行事が取りやめになっていく中、暦に気づかされてくれるのが、花とおだんご。京都には小さな和菓子屋さんがいまも根ざしていて、季節を知らせてくれます。「おやつaoi」の土田葵さんがつくるのはまさに、そんな日常のおやつです。

    画像: なつかしくてあたらしい「おやつaoi」の和菓子 前編/京都、根っこのある暮らし方

    きっかけは、おばあちゃんのおはぎ

    紫竹の町家にある「おやつaoi」。

    店主の土田葵さんが作るのは、“あさなま”。朝生菓子です。

    朝生菓子とは、朝つくって、その日のうちに食べる、お団子や草餅、おはぎといった生菓子。お茶席で楽しまれる上生菓子が“ハレ”なら、あさなまは“ケ”。

    暮らしに根ざした、ふだんのおやつです。

    和菓子をつくりはじめたきっかけは、おばあちゃんのおはぎ。お彼岸やお盆に作ってくれるおはぎがおいしくて大好きだったそうです。

    「祖母が他界したのは高校生のとき、“これでもう、おばあちゃんのおはぎは食べられないんや”って思いました。手作りのおはぎがあるのが、あたりまえやったけど。ずっと続いてきたものも、なくなるのは一瞬なんやなって。そのとき、思ったんです」

    おはぎがなくなることで、大事にしてきた習慣まで失われてしまう。そんな気がして、ずっとこのときの思いが心に残っているそうです。

    画像: 町家の走り庭にある台所で、あんこ炊きももちろん自分で

    町家の走り庭にある台所で、あんこ炊きももちろん自分で

    大学卒業後は、和菓子店に就職し、お店に立っていたという、葵さん。お菓子づくりはプライベートで楽しんでいましたが、独学の限界を感じたそうです。納得いくものをつくりたいなら、やっぱり職人さんとともに働くしかない……。心を決めて、ちょうど人手を募集していた和菓子店の工房に飛び込みました。

    「国産の材料と手づくりのおいしさを大事にされていて。ここでの経験が礎になりました。自分の求めている味がどうすればつくれるか、先輩にいろいろ聞けることもすごく大きかったですね」

    ひとり立ちを考えたのは、30歳のとき。

    「楽しい職場で、申し分なかったけれど。あたりまえですが、自由にお菓子をつくれるわけではないので。このまま勤めていたら、結婚して出産したら、きっと仕事を辞めてしまう。30歳を迎えるにあたって、これから5年後、10年後、どうしていたいかなって考えたんです。ちょうど結婚のタイミングも重なって、”やんちゃするなら、いまかな!?“って」

    なつかしさ8:あたらしさ2のバランスで

    画像: 季節のおだんご、この日は愛南ゴールドで

    季節のおだんご、この日は愛南ゴールドで

    「なつかしいけど、あたらしい」。

    それが、葵さんのつくりたいお菓子です。

    「なつかしい8:あたらしい2が、私にとって心地いいバランスなんです。あたらしすぎると、和菓子らしくないし。古くさいと、なつかしいも違う。和菓子が好きな方たちに楽しんでもらえて、食べ慣れない人にとっての新鮮さもある、それが8:2のバランスかなって」

    定番の三色だんごは、抹茶・プレーン・季節の味を一本に。季節の味は、たとえば、いちご、はっさく、いちじく、プラム、マイヤーレモン、グラニースミス。なつかしさとあたらしさ、まさに8:2。

    画像: はちみつを使った、888どら焼き

    はちみつを使った、888どら焼き

    画像: おはぎ。こしあんきなこ、ほうじ茶あんくるみ、粒あん雑穀米、赤レンズ豆あん

    おはぎ。こしあんきなこ、ほうじ茶あんくるみ、粒あん雑穀米、赤レンズ豆あん

    お茶席で楽しまれる上生菓子は色や形で季節を表すけれど、朝生菓子ならどう表現できるだろう……。そんな発想から、ありそうでなかった三色だんごが生まれました。おはぎがお目見えするのは、おばあちゃんがつくっていたのと同じ、お彼岸とお盆の年3回です。

    「おばあちゃんは上白糖、私は氷砂糖を使っているとか、ちょっとずつ違うんですけど、記憶にあるおいしさに近づけたいなと思っています」

    定番の粒あん、こしあん、きな粉ほか、変わり種として作った、ほうじ茶、あおさ、赤レンズ豆などから、そのときおすすめの3、4種類が並びます。
    「なんであんこは小豆でつくるのかなとも思っていたので、いろんな豆であんこを炊いてみたんですけど、赤レンズ豆はその中でも個性があってよかったんです。アジア料理で使われますが、決してエスニックな味っていうわけではなくて、お菓子としていいなと思って白餡と混ぜて。8:2の新提案です」

    画像: 紫竹の町家にて営む

    紫竹の町家にて営む

    これからも暮らしの中で“あさなま”が楽しまれるように。それがきっと行事や慣わしをつないでいくことになるから。8:2には、葵さんのそんな思いが込められています。

    さて、お店をはじめたころ、ほぼ一人でがんばっていた葵さんですが、2020年、第一子を出産し、いまはまわりとつながりながら、お店を営み、しっかりと根を張っています。お話しのつづき、次回、お届けします。

    ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

    おやつaoi
    京都市北区紫竹下園生町38-10
    木・金・土曜営業
    11:00〜15:00(売り切れ次第終了)
    (臨時休業あり、営業日はSNSで必ず確認を)
    インスタグラム:@oyatsu.aoi


    宮下亜紀(みやした・あき)
    京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。
    インスタグラム:@miyanlife



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