「3時のおやつ」が生まれた、帝国ホテルの〈インペリアルパンケーキ〉
開業130年を迎えた「帝国ホテル」
1890年に、日本の迎賓館の役割を担って誕生した帝国ホテル。
その歴史はひと言で語り尽くせるわけもなく、大小さまざまなドラマとともに現在まで進化を遂げてきました。
ランドリーサービスの導入や、ホテルウエディングなど、帝国ホテルから生まれたサービスは多く、今回ご紹介するパンケーキもそのひとつです。
気分に合わせてアレンジを楽しめる〈インペリアルパンケーキ〉
帝国ホテル 東京で「インペリアルパンケーキ」がいただけるのは、本館1階にある「パークサイドダイナー」。
みゆき通りに面した窓から光が差し込む明るく開放的な空間は、どの時間帯に訪れても気持ちのよい雰囲気。カウンター席や広くゆったりとしたベンチシート、窓側のラウンドシートなど、パキッとした赤が基調となりつつも、ホテルらしい上品さを楽しめるオールデイダイニングです。
美しく焼き上げられた3枚のパンケーキ。
シンプル・イズ・ザ・ベストとはこのことかと唸ってしまうような、余計な装飾のないミニマルな佇まい。そこにジャムのかけられた4つのいちごとホイップバター、それにメープルシロップが添えられています。
シンプルだからこそ、どう食べようか悩んでしまいつつも、まずは何もつけずにひと口。おいしい……。
パンケーキのボリュームにもしかしたら物足りなさを感じてしまうのではといった心配は瞬時に消え去り、ただただ口の中でやさしい甘さが広がっていきます。
ホイップバターは、バターとマーガリンが混ざった塩気のある味わい。上品な甘さのメープルシロップは、思い切りかけてもしつこくありません。
そしてそこにいちごの酸味を合わせると、シンプルなパンケーキがどこまでも奥行きのあるスイーツへと変化していくのです。
「食べ物の好みは人それぞれで、しかもその日の気分によって『今日は疲れたから甘いものを食べたいな』と変わることが当たり前。このパンケーキは、自分でアレンジができることも楽しみのひとつなんです。昔もいまもお客様のお好みに合わせて食べていただきたいので、バターもシロップも別添えでご提供しています」(帝国ホテル 広報課/広報担当)
帝国ホテルのパンケーキ人気に火を付けた人物
帝国ホテルでは、1953年からパンケーキをメニューに出していましたが、当時パンケーキというと、食事の後のデザートか、朝食に食べるというのが通例でした。
それがあるときを境に、日本人に「3時のおやつ」という習慣がもたらされたのです。
1952年、GHQの接収が解除され自由営業をはじめた同ホテル。以前よりホテルを気に入り利用していたアメリカ人商人のハッカー氏が、自ら開発した「パンケーキミックス」を手に来日しました。
「『これでなにかひとつ、メニューを考案してくれないか』と、ハッカー氏から熱い申し出があったそうです。自分が丹精込めて開発した新製品を使ってもらうのは、帝国ホテル以外にないと考えていたそうです」(広報担当)
それまでのパンケーキのつくり方は、小麦粉にベーキングパウダーを合わせてふるったものに、牛乳、卵、砂糖を混ぜ合わせる製法。
注文が入るたびにひとつひとつの工程を繰り返す、なかなかに手間のかかるものだったといいます。しかし、ハッカー氏によりもたらされたパンケーキミックスを使うことで、これまでよりも多くのオーダーを受けることができるようになりました。
そこで、ランチとディナーの間、ティータイムに出すのはどうかという声があがりました。そこから「3時のおやつ」の習慣がはじまったというわけです。
「昭和30~40年代というと、まだまだパンケーキが珍しかった時代。アメリカの影響を受けて小麦粉の消費が大きく伸び、日本の食卓にパンが並ぶことが増えてきた頃です。そんなときにメニューに登場したパンケーキは、小麦粉でできたアメリカ風のデザートということで、大変物珍しく、いつも行列が絶えない人気ぶりだったようです」(広報担当)
やさしく甘く、どこかほっとする味は、ちょっとひと息つきたい3時のおやつにぴったり。
3時のおやつという習慣よ、生まれてきてくれてありがとう。そう感じずにはいられないエピソードが帝国ホテルにはありました。
11時からのティータイムからディナータイムまで提供される「インペルアルパンケーキ」ですが、朝食でいただける「パークサイトブレックファースト」の卵料理をパンケーキに変更することも可能だそう。その際は、付け合わせとして、ハム、ベーコン、ソーセージからいずれかを選べます。
また、通信販売とオンラインショップでは、ご自宅向けに用意した「帝国ホテルキッチン パンケーキセット」を購入可。冷凍状態で届くので、いつでも好きなときに解凍して食べることができます。メープル入りシロップとホイップバターもついてくるなんて、嬉しいですよね。
日本人好みに仕立てた〈ブルーベリーパイ〉
帝国ホテル定番にして、不動の一番人気を誇るスイーツといえば、ブルーベリーが詰まった〈ブルーベリーパイ〉。
1971年に、ホテルショップ「ガルガンチュワ」が開店して以来、変わらぬレシピで親しまれてきたロングセラー商品です。
GHQの接収時代、アメリカ産の食材が日本に多く輸入されました。ブルーベリーもそのうちのひとつ。とはいえ、アメリカのレシピをそのまま再現したところで日本人の口には合わないと考えた当時のシェフは、繊細な感覚を持つ日本人の味覚に合わせたパイを考案。
ブルーベリーは煮詰めても食感の残る、北アメリカ産の小粒のものを使用し、隠し味にはレモン果汁を入れています。煮詰めたブルーベリーの甘みを爽やかにしてくれる柑橘の味わいは、食べてみて納得。
シナモンの香りとブルーベリーの甘味を楽しんだあと、レモンの爽やかさが立ち込める後味は、ひとりで食べてしまえるちょうどよい重量感。
自宅でパイを温めてアイスクリームを添えて「パイ・ア・ラ・モード」にするのもおすすめなんだとか。
実は土台のパイにはしっかりとした食感の「練りパイ」、表面にはパリパリとした食感の「折りパイ」と2種のパイ生地を使用しているのもこだわり。
たっぷりのブルーベリーをしっかり支える土台と、表面のさっくりとした食感。小ぶりサイズでありながら、食感、味わいともに満足感のあるスイーツなんです。
当時のシェフが試行錯誤の上に生み出したブルーベリーパイは、最後の一口まで飽きのこない味わいになりました。
「ブルーベリーパイ」は、前述した「パークサイドダイナー」でイートインもできるほか、JR東京駅構内「グランスタ東京」に昨年オープンした「プティ ガルガンチュワ」でも、ひとまわり小さい直径7㎝の「ブルーベリーパイ」を購入できます。気軽に買えるサイズ感は、ちょっとしたお土産にぴったりです。
変わらぬ味わいを守り続ける、老舗ホテル
「今年11月に131年目を迎える帝国ホテルは、長い歴史の中で受け継がれるレシピや建物の雰囲気を守りつつ、時代に即して新しいサービスを提供してまいりました。しかし、変わらず大切にしてきたことは、お客様に安心してご利用いただくことです。
帝国ホテルで召し上がっていただく食事は、食べてほっとすることができるもの。いつ食べてもまた食べたいと思うもの。そして幅広いお客様に喜んでいただける味わい。そこには、シェフの腕や知恵はもちろん、真心が込められています」(広報担当)
歴史あるホテルの雰囲気の中で優雅な時間を過ごすのもよし。ご自宅でリラックスしながらホテルの味を堪能するのもよし。その日の気分に合わせて楽しんでみてはいかがでしょうか。
帝国ホテル 東京
東京都千代田区内幸町1-1-1
・東京メトロ日比谷線・千代田線、都営地下鉄三田線「日比谷駅」徒歩3分(A13出口)
・東京メトロ都営地下鉄三田線「内幸町駅」徒歩3分
・東京メトロ日比谷線・丸の内線・銀座線「銀座駅」徒歩5分(C1出口)
・JR山手線、京浜東北線「有楽町駅」徒歩5分
03-3504-1111
帝国ホテル公式サイト
オンラインショップ
カジュアルレストラン 「パークサイドダイナー」
03-3539-8046
7:00~20:00 ラストオーダー19:30 (2021年6月10日現在)
※状況により、営業時間等が変更になる場合があります
ホテルショップ「ガルガンチュワ」
03-3539-8086
10:00~19:00(2021年6月10日現在)
※状況により、営業時間等が変更になる場合があります
〈撮影/山川修一 取材・文/山下あい〉