(『天然生活』2012年7月号掲載)
山梨に伝わる紙細工の七夕飾り「オルスイさん」
山里で、下町で。日本のあちこちで伝えられ、根付いている風習や行事が堀川波さんは大好きです。それらは土地の風土と密接に結びつき、そこに住む人々の暮らしが見えるから。そんな堀川さんから、素敵なお誘いがありました。
「山梨に七夕飾りをつくる素敵なおばあちゃんがいるのですが、一緒に会いにいきませんか?」
始まりはインターネット。
「地方特有の七夕の飾りがないかな? って調べていたんです」
すると、山梨の地方に伝わる七夕人形についての記事に出合いました。紹介しているのは信清由美子さんという女性。堀川さんはさっそく、信清さんに連絡をしました。
そして、話をしているうちに、実際につくっている人を紹介してもらえることになったのです。杉田房子さんというおばあちゃんです。何度か手紙のやりとりをしていましたが、七夕を控えた初夏、会いにいくことになりました。
星空に舞う“七夕さん”が一家の安全を守る神様に
房子さんの家は、甲府盆地を見下ろす山の上にありました。遠くには、すくっとそびえる富士山が。
「遠いところ、よく来ましたね~。まずは自家製の甘酒をどうぞ」
にこにこと話す房子おばあちゃんは、今年で85歳。かたわらには、今回の案内人である信清さんが。なんでも、信清さんは星の研究をしているのだとか。
「東京から14年前に山梨に引っ越してきました。山梨のことを知ろうと図書館に通って調べていたら、七夕の風習を見つけたのです」
七夕は、星と結びついた行事。信清さんが気にならないわけはありません。どうやら、その紙細工の七夕飾りは、オルスイさんと呼ばれているらしい。七夕が終わったら紙に包んで保管し、家の留守を守る神さまになる(“留守に居る”でオルスイさん)とされているらしい。そんな興味深いことがいろいろとわかりました。
どうしても実物が見たいと探しましたが、なかなかたどり着かず……。そんなときに、ある婦人から電話がありました。
「七夕飾りを探しているんですって? 私は毎年つくっていますよ。今度、一緒につくりましょう」
その人こそ、杉田房子さんだったのです。
「うちでは当たり前のようにつくっているけれど、いまでは、あんまりやっているお家はないんだってね~。オルスイさんって呼ぶ人もいるみたいだけれど、うちでは“七夕さん”って呼んでいますよ」
そういって、すっすっすっと、はさみを動かし、ほんの数十秒で、織り姫と彦星をかたどった紙の人形をつくる房子さん。
「子どものとき、七夕くらい楽しいことはないっていうくらい楽しみだったよ。お父さんとおじいさんが裏山で笹竹を切って、お母さんが冷や麦や天ぷらをつくって、子どもたちが短冊に願い事を書く。もちろん七夕さんも飾ってね」
短冊や飾りを付けた笹は、戸口の外に立て、8日になったら七夕さんを取って紙に包み、蔵や簞笥にしまうのだといいます。
「紙にくるんだ七夕さんを枕元に置いてお守りにしてた、なんていう人もいるんですよ。ひと晩、星空の風に吹かれた七夕さんを神さんだと思うんだね。年に一度しか会えない織り姫と彦星を一緒にくるんで。なんか、いいよね~」
心底、うれしそうに笑います。
〈撮影/三村健二 構成・文/鈴木麻子(fika)〉
堀川 波(ほりかわ・なみ)
1971年大阪生まれ。イラストレーター、手工芸作家。
著書に『籐で作るアクセサリーと小物』『籐で作るかごバッグ、かご雑貨』(ともに誠文堂新光社)ほか多数。 インスタグラムでは「#堀川波コーデイラスト」のハッシュタグで、イラストとともにコーディネートのアイデアを紹介している。
公式サイト:https://www.dottodot-works.com/
インスタグラム:@horikawa._.nami
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです