素材を削ぎ落として、やさしい味わいに
小田急線「向ヶ丘遊園」駅から3分ほど歩いた場所に、小ぢんまりとした店構えに赤いテントが目印の「ベーグルカンパニー」はあります。地元や日本各地で採れたこだわりの野菜や果物、手づくりのフィリングを使ったベーグルが人気を集めるベーグル専門店です。
お店では、月ごとにテーマを決めてフェアを開催。5月のフェア「大人のチョコレート大作戦」では、ヴァローナ社のブラックチョコレート「マンジャリ」と無農薬デコポンの自家製ピールを組み合わせたベーグルなど、大人の味のベーグルが登場したのだとか。毎年開催されている定番のフェアには、地元の完熟イチゴ農家のイチゴを使ったフェア、伝統野菜ののらぼう菜を使ったフェアなどがあるそうで、聞くだけでわくわくしてきます。
材料は体にやさしいものを吟味して使用。小麦はすべて北海道産で、「ベーグルにしたときに、もちもちになる」という「はるゆたか」がメインです。酵母は、小麦の甘さを最大限に引き出すために、麹由来の天然酵母を。砂糖は鹿児島県産のきび砂糖「喜美良(きびら)」、塩は沖縄産の「シママース」を使いますが、素材の味や風味を損なわないように、砂糖も塩も必要最低限しか入れないのが茶野さん流です。
「塩はもうちょっと入れてもいいんですけどもね。そのほうが食べたときにパンチがあるんですが、あえてそうしません。まったく入れないとベーグルにならないから、ギリギリの量で入れています。お客さんに『やさしい味ですね』っていわれるのは、多分そのせいかと」
やさしい味わいの生地に力強い風味を添えるのが、こだわりの食材たち。茶野さんのご両親が自宅の庭で無農薬栽培する、レモンやミカン、デコポン、キンカンなどの果物、バジルやパクチーなどのハーブ類のほかに、懇意にする地元や日本各地の農家さんから仕入れたもの、川崎市北部市場で見て仕入れたものなどを使います。
さらに、あんこや味噌、果物のフィリングなど、できるものはなんでも手づくりするという徹底ぶり。そんな自家製の具材が、ベーグルを隅から隅までおいしくしてくれます。
群馬から届いた無農薬の青梅「鴬宿(おうしゅく)」を使った、「森島さんちの青梅あんこ」(季節限定)は、まさにそんなベーグルのひとつ。「こんなに皮にハリがあり、斑点がなく、果汁が瑞々しい青梅はなかなかない」と茶野さんが絶賛する青梅を、甘さ控えめの甘露煮にし、きび砂糖で炊き上げた自家製あんこと一緒に、巻き込んであります。
「かぼちゃとピーナッツバタークリームチーズ」は、素材の味がぎゅっと詰まった期間限定商品。北海道産の栗かぼちゃを練り込んだ生地で、自家製ピーナッツバターと北海道産クリームチーズをはさんでいます。
早速いただいてみると、ピーナッツバターの強い風味とコクのある甘さが、クリームチーズの酸味と調和し、後を引くおいしさ! 店のポップに「大量買いするお客さまいます」と書かれているのですが、その気持ちが痛いほどよくわかります。
「生地づくりから焼成まですべてつながっているので、どの作業にも気を使っていますが、特にこだわっているのは、ケトリングかもしれないですね」と茶野さん。ベーグルは普通のパンと違い、焼く前に生地を茹でるのですが、その茹でる工程がケトリングです。
「たとえば同じ生地でも、一番初めに成形した子と100番目に成形した子では、発酵の進み具合が違いますよね。ケトリングでは、茹であがったら鍋から金魚すくいのようにすくいあげていくんですが、生地に発酵の違いがあるので、それぞれの茹であがりのタイミングが異なってきます。それを見極めるのが重要で、時間が短すぎても長すぎても、生地はもちもちになりません」
「つまらないベーグルにならないように」と茶野さんはいいます。舌に心地いい、ちょうどいいもちもち加減にするために、素材選びから茹で具合まで、ひとつ一つていねいに見定める。そうやって生まれた生地は、こだわりの食材と一体となり、この上ないおいしさに。ひと口食べると思わず笑顔になるそんなベーグルを、ぜひ味わってみてください。
<撮影/山田耕司 取材・文/諸根文奈>
ベーグルカンパニー
044-900-8700
10:00~18:00
日・月休み
神奈川県川崎市多摩区東生田1-2-12-101
最寄り駅:小田急線「向ヶ丘遊園駅」
https://bagelcompany.jp/
(通販あり)
https://www.instagram.com/bagelcompany/?hl=ja