西陣の古い町家を、みんなが集まれる場に
ダイモンナオさんは高知出身、京都で大学時代を過ごしました。その後、東京暮らしを経て、夫の実家に近い、京都へ移り住みました。西陣の町家をリノベーションして夫と娘と暮らし、12年になります。
「住まいは「織屋建」と言われる、西陣織の工房だった物件。奥が吹き抜けになっているのは、織機が置かれていた名残です。町家に住めるなんて、思いもよらなかったけれど、建売やマンション、いろんな物件を見て回りましたが、なかなかピンと来なくて。不動産屋さんが「だったら町家はどうですか」って、すすめてくれたんです」
住まいがあるのは、京都の街中。けれど、大きな通りから一本入ったこの辺りは、代々暮らす家族、おじいちゃん、おばあちゃんも多い、静かな住宅地。順番に回ってくる、町内会長も無事に務めあげて、だんだんと町になじんでいきました。
顔の見えるつながりが町をつくる
娘さんが大学生となって、そろそろ仕事に集中できる、アトリエが持ちたい。そう思っていた矢先、住まいの近くの、町家ゲストハウスが閉業すると知りました。宿主とご近所付き合いしていたダイモンさんは、間取りも、雰囲気もよく知っていました。
アパートの一室に比べれば、家賃がかかる。けれど、何にも代え難い魅力を感じ、ほぼ即決で借りると決め、アトリエ兼レンタルスペース&宿「草と本」をスタートしました。
「この辺は住宅地なので、知らない人が借りてどうなるのか、不安もあったんです。ご近所の皆さんも「ダイモンさんが借りてくれるんやったら安心や」って言ってくださって、ほっとしました。町家は音が響いたり、寒かったり、難点もあるし、ご近所への心配りも大事。けれど、それが、ありのままの京都。ここを訪れる方には、京都の暮らしを感じながら、ゆっくり過ごしてもらえたらいいなと思っています」
心を配って暮らす。ちょっと面倒にも思えるけれど、そうして、築いてきたつながりがあるから、声をかけ合える、何かあったとき互いに力になれる。顔の見えるつながりは、安心。そうして、京都の町はつづいてきたのだなと思います。
「なにかやってみたい」気持ちになる場所
「まさかこんな場をつくるなんて思ってもみなかった」という、ダイモンさん。
2階に客室が一室、1階の広い座敷&キッチンがレンタルスペース。
宿で働いた経験はなし。ましてや、お店を営んだこともありません。けれど、子育てや家づくりの経験、仕事や生活を通してつくってきたつながり、経験すべてが、いまに生かされています。
「もともとゲストハウスだったから、すんなりはじめられると思っていたんですけど、条例の改正に伴う改修も必要で、四苦八苦しながら営業許可を取得しました。慣れないことでしんどかったですが、がんばって乗り切ったから、いろんなことができる今があります。
もともと友だちが集まるのも好きだったし、自宅でサロンができたらいいなとは思っていたんです。実際に自宅のLDKで、薬膳のイベントをやったことがあるんですが、プライベート空間との区切りが難しいなと感じました。
五感で感じることが好きなので、誰かにとっても、自分にとっても、気づきがあるイベントができたら嬉しい。「地元の野菜を使ったイベントをやってみたい」と持ちかけられたり、京都の和菓子の食べ比べ会が開かれたり。ワークショップやお稽古、演奏会……、ここをはじめてから、人のつながりから、思ってもないイベントができていて、おもしろいです」
ここは「なにかやってみたい」気持ちにさせる場。
町に開く場が、人を集めて、町を変えていきます。
コロナ禍でのスタートとなりましたが、「だからこそ、マイペースでできたかもしれません」と、ダイモンさん。後編では、開業から1年、ここがどんな場になったか、どんなことを感じてきたか、お聞きします!
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草と本
京都市上京区水落町87-2
宿泊予約はHPから。
https://kusatohon.com/
イベントスケジュールについてはInstagramにて。インスタグラム:@kusatohon
ダイモンナオ
イラストレーター。雑誌・書籍・広告など、幅広く活躍。
http://www.daimon-nao.com/
宮下亜紀(みやした・あき)
京都に暮らす、編集者、ライター。出版社にて女性誌や情報誌を編集したのち、生まれ育った京都を拠点に活動。『はじめまして京都』(共著、PIE BOOKS)ほか、『本と体』(高山なおみ著)、『イノダアキオさんのコーヒーがおいしい理由』(イノダコーヒ三条店初代店長 猪田彰郎著)、『絵本といっしょにまっすぐまっすぐ』(メリーゴーランド京都店長 鈴木潤著、共にアノニマ・スタジオ)など、京都暮らしから芽生えた書籍や雑誌を手がける。インスタグラム:@miyanlife