(『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、すべてシンプルに考える生活術』より)
良質な油は、からだの中の働きをスムーズにしてくれる‟潤滑油”
毎日の食事で私が強くおすすめしたいこと。それは良質な油をとることです。
とり過ぎは禁物ですが、適量の油は必須な栄養です。油はからだの細胞を作ったり、ビタミンを吸収するのに欠かせない成分ですし、肌はもちろん内臓にも潤いを与えてくれるもの。からだの中の働きをスムーズにしてくれる、文字通り‟潤滑油” なのです。
良質な油とはどんな油でしょうか。何から作られている油なのか原材料がわかって、1種類の材料から作られているものがいい。
たとえばオリーブオイルだったら、オリーブで作られている。ベニハナ油ならベニハナの種子から作られている。米、菜種、コーン、ピーナッツ、えごまなど油にもいろいろな種類があります。
私はオリーブオイルも使いますが、オリーブオイルは果実からとる油ですし、ヨーロッパの地中海沿岸あたりが産地だし、私たちの3食を土台で支えてくれる油ではないと思います。やはり西洋料理に向くと思うのです。
基本の油として私が使っているのは、ごま油です。農耕稲作文化の東洋人には、穀物のごまからとった油がいい。ごまにはみなさん馴染みがあるでしょう。ふだんの食事にはその国や土地でとれるもの、古くからあるもの、風土の食文化に即したものをとるほうが安心です。
古くからある食べ物=その土地の人たちの命を支えてきたもの、ですから。
基本と仕上げ、2種類のごま油
ごま油には2種類あるのをご存じですか? ひとつは、ごまの香りが高くて、茶色が濃いごま油。ごま油と聞いて、みなさんがイメージするのはこちらかな。
ごまを焙煎してから圧搾するので、色が濃く、なんともよい香りがします。
もうひとつは、生のごまを圧搾してとった油。太白ごま油がこれで、白というか透明に近い色をしています。香りはほとんどなく、くせがありません。
それでいて、さわやかなうまみがある。私が料理に使うのは、もっぱらこちらの白い太白ごま油です。
日本に来たばかりのころ、自分の料理がいまひとつおいしくできないのを感じていました。当時は油の種類も今みたいに多くありませんでしたから、手に入りやすいサラダ油を使っていたんです。
それがあるとき、天ぷら屋さんで太白ごま油というものを知り、使ってみたら料理の味がガラッと変わった。油を変えただけで、すごくおいしくなったのです。
以来、太白ごま油を、わが家の基本の油にしました。くせのない太白ごま油はどんな料理にも向きます。
「油で炒める」「油をひいたフライパンで焼く」と私のレシピに書かれていたら、すべて太白ごま油のことです。値段が少し高いと感じる方もいるかもしれません。でも、油はうまみを作る調味料と考えて、ぜひよいものを使ってほしい。
たいていの料理は塩と油だけでおいしく作れる……と私が言うのも、良質な油があってこその話です。
一方の茶色のごま油は、料理の仕上げに少したらして、風味をつけるような使い方をします。中国で茶色のごま油は、油売り場ではなく調味料売り場に小びんが並んでいます。
油にこだわると、家のごはんがうれしくなるほどグレードアップします。
〈撮影/木寺紀雄〉
本記事は『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、すべてシンプルに考える生活術』(大和書房)からの抜粋です
ウー・ウェン(うー・うぇん)
料理研究家。中国・北京で生まれ育つ。ウー・ウェンクッキングサロン主宰。1990年に来日。友人、知人にふるまった中国家庭料理が評判となり、97年にクッキングサロンを開設。医食同源に根ざした料理とともに中国の暮らしや文化を伝えている。著書に、『体と向き合う家ごはん』(扶桑社)、『ウー・ウェンさんちの汁ものとおかず』(光文社)など多数。
https://cookingsalon.jp/
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ウー・ウェンさん初の暮らしエッセイ。物事を複雑にせず、シンプルにすることが快適な暮らしの秘訣、という哲学に貫かれた生き方は、清々しさに満ちています。本当に大切なものだけを見据え、心もからだも身軽に暮らしていくこと。姿勢よく立ち、はっきり話すこと。モノ・コト・ヒトのよい面を見ること……。歳を重ねてもなお明るくクリアに生きているウー・ウェンさんの日常生活を追いながら、ウーさんが実践している日々の工夫や考え方を紹介する一冊です。