(『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、すべてシンプルに考える生活術』より)
卵とトマトさえあれば作れる、定番中の定番
「トマトと卵の炒め物」は人気のおかずです。赤いトマトと黄色い卵のコントラストがきれいだし、自然の甘みと酸味のハーモニーがたまりません。そもそも北京の定番料理で、わが家でも本当によく作ります。私はご飯にのせて丼にして食べるのが好きです。
クッキングサロンで「トマトと卵の炒め物」のデモンストレーションをすると、「あら、いつも作っているのと全然違う!」という声が必ず上がります。
そして試食になると「どうしてこんなにおいしいの!? やっばり全然別物です」って。作り方をご紹介しますから、何が違うのか、どうぞ探ってみてください。
トマトと卵の炒め物の作り方
材料は、中ぐらいの大きさのトマト2個。よく熟したトマトがいいです。卵3個、塩小さじ1/4ぐらい、こしょう、片栗粉小さじ1/2(水大さじ1で溶いておく)、にんにく1かけ、太白ごま油大さじ2ぐらい。いつも家にあるものばかりですね。
卵をボウルに割り入れてよく溶きほぐします。トマトはヘタをとって縦半分に切ってから、大きめ一口大の乱切りにします。
にんにくは薄皮のついたまま、まな板に置いて包丁の腹をあて、上からポンッとげんこつで叩いてつぶします。こうすると薄皮も自然にとれるからラクです。
フライパンに太白ごま油を人れて、中ぐらいの火にかけます。フライパンを動かすと油がスムーズに動くぐらいに温めます。菜箸の先にちょんと卵液をつけて油に入れると、ジュッとすぐに固まるぐらいの温度です。
フライパンに卵を一度に入れて広げ、火を小さくします。菜箸で大きくゆっくりとかき混ぜて、固まってきたところをフライバンの側面のほうに寄せて上げます。
また菜箸で大きくゆっくりとかき混ぜて、固まってきたところをフライパンの側面のほうに寄せて上げます。これを繰り返して卵に火を通すと、卵が空気を含んで層のようになるのです。
固まった卵をフライパンの片端に寄せます。フライパンの空いたところヘトマトを入れ、すべてのトマトを平らに広げたら、卵をトマトの上にかぶせます。卵でふたをし、トマトを蒸し煮のような状態にして、トマトの水分を出すわけです。
数秒後にトマトから少し水分が出てきたら、卵のふたを横に下ろします。トマトの部分に塩をふり、さらに水分が出るようにします。
卵を箸で大きめに崩しながらトマトと和えます。「フライパンは加熱できるボウル」と私はよく言うのですが、本当にフライパンという加熱できるボウルの中で、トマトと卵を和えている感覚です。
トマトの角が丸くなったら、水浴き片栗粉を全体にまわしかけます。水溶き片栗粉でトマトの水分をとじて、トマトのうまみの出たソースを卵にからめるのです。
次ににんにくを加えます。軽くにんにくの香りをつけたいだけなので、にんにくを入れるのは最後です。
全体をサッと炒め合わせて、こしょうをふればできあがりです。
卵に火を通すのも、トマトを炒めて水分を出すのも、弱火で行います。炒め物は強い火でガーツと炒めるイメージがあるかもしれませんが、家庭料理は弱火でゆっくり作る。そのほうが失敗なくおいしくできます。
〈撮影/木寺紀雄〉
本記事は『本当に大事なことはほんの少し~料理も人生も、すべてシンプルに考える生活術』(大和書房)からの抜粋です
ウー・ウェン(うー・うぇん)
料理研究家。中国・北京で生まれ育つ。ウー・ウェンクッキングサロン主宰。1990年に来日。友人、知人にふるまった中国家庭料理が評判となり、97年にクッキングサロンを開設。医食同源に根ざした料理とともに中国の暮らしや文化を伝えている。著書に、『体と向き合う家ごはん』(扶桑社)、『ウー・ウェンさんちの汁ものとおかず』(光文社)など多数。
https://cookingsalon.jp/
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ウー・ウェンさん初の暮らしエッセイ。物事を複雑にせず、シンプルにすることが快適な暮らしの秘訣、という哲学に貫かれた生き方は、清々しさに満ちています。本当に大切なものだけを見据え、心もからだも身軽に暮らしていくこと。姿勢よく立ち、はっきり話すこと。モノ・コト・ヒトのよい面を見ること……。歳を重ねてもなお明るくクリアに生きているウー・ウェンさんの日常生活を追いながら、ウーさんが実践している日々の工夫や考え方を紹介する一冊です。