小さい店だからこそできること
「ベーカリー アベ」には、季節の食材を贅沢に使ったパンから滋味深いハード系パンまで、魅惑的なパンがそこかしこに並んでいます。
なかでも気になるのが、オーダー制の「カスクルート」。カスクルートとは、バゲットを使ったサンドイッチのことで、こちらでは店自慢の「バケット15」で具材をサンドしています。「バケット15」は、石臼挽きのフランス産小麦だけを使い、15時間発酵させて旨味を引き出したもので、粉の香りの高さは格別です。
サンドイッチをその場でつくるというのは、ほかのパン屋さんではなかなかやっていないこと。「大変ではないですか?」とたずねると、こんな答えが返ってきました。
「最初はつくったものを並べて売っていたんです。でも、地元のお客さんは高齢の方が多く、バゲットはかたくて食べにくいという声がけっこう多くて。だから、いまでは基本はバゲットでおつくりしますが、お客さんからこのパンでつくってほしいというリクエストがあれば、ご指定のパンでつくっています。もちろんご希望のパンが残っていればですが。
でもそうすると、フレッシュですし、食材の水気がパンにしみないという利点もあって。なかには『カマンベールチーズは入れないでほしい』といった要望もあります(笑)。ちっちゃいお店だからそういうのもありなんじゃないかな、その人が食べたいサンドイッチをつくってあげて、喜んでもらえればいいじゃない、そう思っていて」
土日は販売スタッフの負担が大きいので、最初から完成したカスクルートをいくつか店頭に並べておき、売り切れたら注文制に変わるそうです(平日は終日注文制)。
素材が鮮やかに香る珠玉のシュトーレン
取材に訪れた時期は、ちょうどクリスマス直前。お店のショーケースには、クリスマスを彩る「シュトーレン」がたくさん並んでいました。「ベーカリー アベ」の「シュトーレン」は、吟味した素材を使用。阿部さんが独立する前にシェフを務めていた「ビゴの店」の伝統を忠実に守り、ていねいにつくりあげているものです。
「ほかのパンは材料に特別なこだわりはないんですが、この『シュトーレン』だけは、こだわってるかな。2週間以内につくられた、フレッシュなバターを取り寄せ、バターの純度をあげて香りを強くするために、限りなく水分を減らすという作業を自分のところでしています。
ドライフルーツも厳選し、お酒にしっかりと漬け込み、具体的な方法は上手く説明できませんが、生地と一体化するように仕上げていますね。バターにしろナッツにしろ、すべてが重なり合ってこの味が完成します」
「パンやお菓子の製法にこだわりはない。普通のやり方を忠実に守っているだけ」とさらりと話す阿部さん。でも、そんな阿部さんの手にかかると、どれもおいしいパンに仕上がるから不思議です。
雑穀をたっぷり練り込んだ「セレアル・ブレッド」も、そんなパンのひとつ。生地全体から雑穀の香ばしさと濃厚なうま味が感じられ、食べると自然と元気が湧いてくるようです。
スコーンも同様に絶品で、ざくざくした食感が心地よく、粉のうま味がしっかり。
全粒粉など特別な粉を使っているのかと思いましたが、そうではありませんでした。
「全粒粉はとくに入れていませんよ。普通の薄力粉を使っています。ナッツをたっぷり入れているので、香りがいいというのはありますね。でも、それ以外は特別なことはなにもしていなくて、本来のスコーンのつくり方にのっとっているだけです。しっかり焼いてあげて、ちゃんとしたスコーンをつくる。それだけでおいしいものができあがるんです」
お客さんのことを思いやってつくる「カスクルート」、材料を吟味し、伝統を守り手間暇を惜しまずにつくる「シュトーレン」、素材の風味が生きたフレッシュな味わいのパンやお菓子。食べるとどれもが心にしっかりと刻まれ、また味わいたい、そう思わせてくれるのでした。
<撮影/林 紘輝 取材・文/諸根文奈>
ベーカリー アベ
045-532-8326
7:30~売切次第終了
月休み ※不定休(おもに火曜日。SNSにてお知らせしています)
神奈川県横浜市青葉区柿の木台3-20
最寄り駅:東急田園都市線「藤が丘駅」
https://www.instagram.com/bakeryabe/?hl=ja