• はなさんがお茶のお稽古を始めて早6年。茶の湯の世界には、日本人としての大切な繊細な心構えがあるとはなさんは考えます。お茶のお稽古を始めたきっかけは、お祖母さまの着物を受け継いだことだったといいます。受け継いできたものと、受け継がれていくものについてのお話。
    (『今日もお稽古日和』より)

    ものを失う時の寂しさ

    今年に入ってから、大切にしていた電化製品を新調し続けている私は「永遠な物などない」と自分に言い聞かせ、物を手放すたびに訪れる寂しさを拭い去っていました。

    つい先日も、携帯電話にパソコン、私の数年分の思いが打ち込まれた愛用品に「お疲れさま」を告げたばかり。まだ必要なデータがあるかもしれないからと、未練がましく、作業中に手が届く場所に置いてあるのですけどね。

    消耗品には寿命があって、いつかは買い替える時期を迎えることは分かっているものの、色々な記憶が蘇ってくるのでお別れする時は寂しい気持ちに包まれます。

    愛情を持ち、大切にする「物」は長生きする力がある

    そういえば、祖母が大切にしていた腕時計をコンサート会場でなくしたことがありました。あっ、母のパールのブレスレットも。

    他にもどんどん出てきそうですが、気がついた時には、手首にあったはずのものがなくなるというアクシデントに二度も遭遇し(単に私が落としただけでしたが)、以来、アクセサリーをする時は五分おきに安否確認をすることで気持ちが落ち着くようになりました。

    「永遠な物などない」なんて、この場合は言い訳に過ぎませんが、あの時、私がアクセサリーの安否確認を怠っていなければ、その余生を見届けることができたのかもしれません。

    所有者が愛情を持ち、大切にする「物」は長生きする力があるのですから。

    祖母の着物もそうですし、母が祖母から受け継ぎ、私にまで伝わるアクセサリー類もそう。建築、書物、仏像、宝物、そして、代々、受け継がれてきた茶道具もそうです。

    せめて、祖母や母が大切にしてきた物を受け継ぎ、次の世代に引き継ぐことができれば良いのですが......。

    100年使い続けることができるといわれる山葡萄の籠

    何度もそのバトンを落としてきた私がなんと、親子三代続くと言われる、山葡萄の籠を作ることになりました。

    単純計算すると百年もの間、使い続けることが可能な籠です。

    強靭な山葡萄の籠を手作りできる工房が都内にあると知り、着物仲間のヘアメイクさんとスタイリストさんと通うことになりました。

    画像: 100年使い続けることができるといわれる山葡萄の籠

    こちらの「工房kago」では、群馬県の山奥に生息する山葡萄の蔓を収穫しています。雪深く、過酷な環境で育つ山葡萄ほど、太くて良質な蔓に成長するそうで、職人さんがおよそ六、七メートルの高さからその蔓を切り落とし、まずは周りの鬼皮を剥きます。その下から現れる クリーム色の皮を天日干しし、乾燥させてから保存。

    籠作りに使われる材料となる「ひご」は、こちらをまた水に漬けてから戻し、なめしをかけ、均一の幅に切ります。一つの籠を作るのに六十メートルのひごが必要となるそうで、市販されている山葡萄の籠が少々、お高いのも納得。

    良質な材料を手に入れるだけでも大変な作業が必要なのですね。これだけ頑丈に育った山葡萄で編む籠ならば、私の代までは元気でいてくれるかな? と、編み物が苦手な私は大量のひごに囲まれ、突然、弱気に......いや、一代限りの籠生でもいい。私と共に楽しい時間を過ごせるような、魅力的な籠を作ろう!

    まずは、四角い木型に添うように、ひごを編んでいきます。今回、選んだのは「網代編み」という、ベーシックなデザイン。水で戻したひごは柔らかくなっているのですが、隙間を作らずに詰めながら編み続ける作業には根気が必要で、初心者は力でギュッと絞めながら編むことで、この隙間を埋めようとしてしまうのです。

    案の定、翌日には全員が筋肉痛になっていましたが、それでも、二日半かけて、編んで、編んで、編み続けました。作業は早いけど、内容が雑な私。どうにか縁の部分をかがり終え、全体的に隙間を詰めたら、細かく飛び出す皮をバーナーで焼いていただきます。びっちり編んだ籠を最後にたわしでゴシゴシ磨いたら、完成です。

    この籠をだれかが受け継ぐ日が来るかも?

    磨くことで艶が出るそうですが、私はたわしを購入しただけで、 家ではまだ一度も磨いたことがありません。それでも、洋服とコーディネートしたり、着物や浴衣に合わせて持ち歩いたり。普段使いしているだけで、自然と艶が生まれてきました。

    かわいい籠を編み終えた幸せに、育てていく楽しみが加わり、完成した喜びも倍増。群馬で育った山葡萄と一緒に、これからどんな景色に出会うのかな。私がおばあちゃんになっても、よろしくね!

    画像1: この籠をだれかが受け継ぐ日が来るかも?

    さて、筋肉痛も数日で引き、籠を編む苦しみも忘れ、その半年後には、着物や浴衣に合わせる下駄を山葡萄で編みました。お揃いの籠と下駄で、着物のコーディネートも ちょっぴりグレードアップした気分。

    山葡萄で手作りした籠と下駄が何年先まで残るか分かりませんが、私が大切にすることで、もしかしたら次の世代へと受け継がれるかもしれない。

    ほのかな期待を寄せながら、明日もお揃いの手作り山葡萄セットを身につけて、茶会のお手伝いに行ってきます。

    本記事は『今日もお稽古日和』(淡交社)からの抜粋です



    画像2: この籠をだれかが受け継ぐ日が来るかも?

    はな
    モデル・タレント。神奈川県横浜市出身。17才からモデル活動を始める。現在は、ファッション誌で活躍するかたわら、FMヨコハマ「Lovely Day♡~hana金~」のナビゲーターも務めるなど、幅広く活躍している。趣味はお菓子づくりや茶道、仏像鑑賞。著書に『はな、茶の湯に出会う』(淡交社)、『hana’s style book』(宝島社)、『ちいさいぶつぞう おおきいぶつぞう』(幻冬舎)、『おくるおかし』(集英社)など。5月17日に新刊『今日もお稽古日和』(淡交社)が発売になったばかり。
    インスタグラム:@hanalovestaco

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