• 高知の山のうえから、くらしと社会を見つめてきた布作家の早川ユミさん。コロナ禍によるパンデミックの中で、2022年のコロナの時代をどう生きていくべきか。早川さんの里山のくらしを記録した美しいビジュアルとともに1冊にまとめた『くらしがしごと 土着のフォークロア』(扶桑社)から、くらしと社会、しごとについてご紹介します。

    「くらしがしごと」という言葉に出合って。くらしは社会とつながっている

    わたしのしごとは、衣服をつくることです。

    にっぽんの農民服もんぺ、チベッタンワンピースやネパールやタイの農民服のような衣服をつくってきました。

    ちくちくしごとをするように、ちいさな畑や果樹園、日本みつばちのお世話をしています。

    どう、くらすかは、どう、生きるかということだと、ものつくりをしながら考えてきました。

    画像: 土佐つむぎや遠州つむぎの畑モンペ

    土佐つむぎや遠州つむぎの畑モンペ

    夫であるテッペイ(陶芸家の小野テッペイ)とくらしはじめたのは、31年まえのこと。高知の山のてっぺんに移住してからは、21年がすぎようとしています。

    ふたりのおとこの子を育てながら、くらすように、しごとをするまいにちでした。ごはんをつくる、洗濯をする、そうじをする、子どもを育てる。そういうこととおなじように、ものをつくる。

    そうありたいとあたまでは想うのだけれど、さいしょから理想どおりにいきませんでした。

    テッペイといっぱいケンカをして、いまのくらしをつくってきました。

    そんなわたしのくらしによりそい、みまもるようにかたわらにあったのが、テッペイの父セツローさんのおくりもの「暮しが仕事 仕事が暮し」という河井寛次郎の版画のことばです。寛次郎は、ほぼ100年くらいまえに活躍した陶芸家でした。

    この版画のことばが、あるときすーっとからだにはいってきました。セツローさんは、なんにもいわないで、わたしたちにくらしがしごとだと、あたりまえに、そおっと伝えてくれたのでした。いま思うと、とてもふしぎな気がします。

    なぜかというと、この版画がやってきたころ、くらしがしごとだと、わたしも感じていたから。

    若いころは、この経済優先の資本主義社会のあり方そのものに、なにかふにおちない、生きにくさを感じていました。社会のいろいろに違和感がたくさんありました。

    たとえば、名古屋オリンピックの反対運動をとおして、環境のことを考えました。おとことおんなの差別を感じ、フェミニズムやかぞくのもんだいを想い、自然なくらしからオーガニックなたべものを探して、農業もんだいにむかいあう。だけど運動だけじゃ、なんにもかわらないし、かえられない。

    そんなもどかしさから、くらしのなかにこそ、社会のもんだいがちりばめられていると、気づいたのです。くらしは社会のすべてにつながっているのです。

    くらしをじぶんの手に取り戻すために、始めたこと

    くらしは経済もんだいであり、くらしは、政治もんだいです。また、くらしはかぞくのもんだいでもあり、くらしは、環境のもんだいでもあります。だからくらしをじぶんの手にとりもどそうと。

    縄文人や未開な人はたべものを得ることが、しごとでした。わたしたち現代人は、しごとをして得たお金でたべものを買います。

    けれども、すこし、たべものをつくるしごとをすると、根源的なくらしのゆたかさを実感できるのではないかな?

    やがて20代のわたしは、くらしをじぶんの手でつくろうと「暮らしを紡ぐ塾」というのを仲間とひらきました。みそやお茶つくり、草木染めやもんぺや布団つくり、いまとやっていることはそうかわらないのです。

    つくるくらしをすることで、社会は、きっとかわると、信じていました。

    画像: 春にこんにゃく芋の花が咲いたところ

    春にこんにゃく芋の花が咲いたところ

    セツローさんのおくりもの「暮しが仕事 仕事が暮し」。この詩には、つづきがあるのです。

    この詩はもともと「いのちの窓」という長い詩の一文です。

    わたしたちは、過去と未来、祖先と子孫という、おおきな流れのなかに生き、生かされているという。河井寛次郎のことばをとおして、セツローさんが伝えたかったことが、より鮮明に想えるのは、セツローさんが銀河に旅立ち、いまは、もういないからかもしれません。

    セツローさんからうけつぎ、わたしから子どもたちへとつながる、生命自然のおおきな流れ。わたしもおおきな流れのいちぶであると感じると、安心し、こころのよりどころになるのです。

    そのおおきな流れの根っこにあるのが、くらしです。

    くらしは、自然とつながり、ぐるぐると循環するもの。そのくらしには、自然がひつよう。こういう方向に社会がかわるといいなと、想うのです。

    つよく想えば、だいたいの夢は、かなうものです。そう、みんなの想いが具現化したものが、社会をつくるのだから。

    〈文/早川ユミ 写真/きょう・よく〉

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    早川ユミ
    布作家。ちくちく、畑、ごはん、ときどき旅。高知の山のてっぺんに暮らし、ちいさな果樹園と畑を耕す。日本みつばちを飼い、はちみつの自給自足。著書に『くらしがしごと 土着のフォークロア』(扶桑社)、『種まきノート』『種まきびとのものつくり』『種まきびとの台所』『旅する種まきびと』『野生のおくりもの』『早川ユミのちくちく服つくり』(すべてアノニマ・スタジオ)、『種まきびとのちくちくしごと』(農文協)、『からだのーと』(自然食通信社)、『ちいさなくらしのたねレシピ』(PHP研究所)、『畑ごはん(文化出版局)など。

    画像: くらしはわたしじしん|くらしがしごと 早川ユミ

    『くらしがしごと 土着のフォークロア』(早川ユミ・著)

    『くらしがしごと 土着のフォークロア』(早川ユミ・著)

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    高知の山間で暮らす、布作家の早川ユミさん。畑を耕し、果樹を栽培したり日本みつばちを育てたり、自然ととも暮らしています。パンデミックのなかで、2022年のコロナの時代を、どう生きていくべきか。私たちは大きな時代の変化のなかを生きています。自分で食べるものや着るものは自分の手でつくり、暮らしを自給自足に。高知の山のうえから、「くらし」と「しごと」について深く考察し、分かりやすいことばで綴る1冊。高知の里山の暮らしを記録した美しい写真と、躍動感あふれるイラストとともにお楽しみください。

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    HP「種まきびとのくらし」
    http://yumi.une-une.com/

    YouTubeチャンネル「種まきびとチャンネル」
    https://www.youtube.com/channel/UCBWw-ZHX55asQr9wQOprkiA

    『くらしがしごと』の動画やインタビューをアップしています。

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    NHKの国際放送「NHK WORLD 」の「Zero Waste Life」特集で、早川ユミさんの暮らしが取材されました。オンデマンドで無料配信中です。ぜひご覧ください。

    Handmade Green Living - Zero Waste Life | NHK WORLD-JAPAN On Demand
    https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/ondemand/video/2093023/



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