子どもの片づけ、成功の秘訣は〇〇〇をぐっと下げること?!
文具におもちゃに服に本……。子どものものは年齢によって変化しながらどんどん増えていきます。使ったものをちゃんと片づけなかったり、必要な時にすぐに見つからない、なんてことはよくある話。そのたびに振り回されて、ついイライラしたり叱ってしまったりしていませんか。
子どもがのびのびと暮らしているのに、いつも家のなかがすっきりと片づいている美濃羽家。家族みんながごきげんでいられる片づけの手順や収納の工夫についてお聞きしました。
遊ぶ時は思い切り散らかして。
ゴン(長女)もまめぴー(長男)も、幼いころは家のなかでいろいろな遊びをしてきました。
折り紙、お絵かき、積み木、ブロック、ぬいぐるみのごっこ遊び……。時には、テープをペタペタ引き戸に貼りつけたり、ちゃぶ台にクレヨンで落書きをしたり、「あ~やっちゃった! 」と思うこともありましたが、どんなことでも「やっちゃダメ!」はあんまり言わなかったような気がします。
さすがに障子いっぱいに絵具でお絵かきをしていた時と、全身墨だらけになって魚拓(人拓? )をとっていた時は、「ひえ~! 」となりましたが。でもその目を見ていると、すごいキラキラしてるんですよね。
自分が大切に手入れをしている家具を汚されて相当ショックなんですが、子どもがめっちゃ楽しそうにしているのを見ていたら、なんだか可笑しくなってきちゃって。まあ命に関わることじゃなかったらいいか、って。
「この珍事、夫に見せよう」と写真を撮ったりしながら、「子どものアイデアってすごいなあ」「そんな発想なかったわー」と、よく感心させられていました。
遊び方と同様に、散らかし方も子どもたちは豪快です。おもちゃ箱を底からひっくり返し、部屋中レゴブロックと、おままごと道具と、ぬいぐるみだらけにしちゃう。もう何度レゴを踏んづけて涙目になったことか。
しかも、ADHD特性のある娘は興味が次々移り変わり、「一つしまって、一つ出す」が頭のなかの辞書には無いようで……。
余裕がある時は「おもろいなあ」と笑って見ていられますが、忙しい平日の夕方なんかはついイライラして。私も「片づけなさい~! 」を連発していた時期がありました。
「子ども」と「片づけ」の相性は悪い?!
でもある時、はっとしたんです。いくら怖い顔をして「片づけなさい! 」と言ってみても効果がないどころか、険悪ムードになるばかり。それに、娘の様子を観察していて、ある一つの法則性を発見したんですよね。それは「きれいに片づけた場所こそ、真っ先に散らかっていく」という事実!
エントロピーの法則よろしく、どうも整然とした場所ほど無性に散らかしたくなるみたい。それってもしかしたら、子どもの使命のようなものかもしれないと思って。
なぜって、子どもは「いま」を生きている生物だから。水たまりを見つけたら必ず靴を浸したり、あらゆることを「後先を考えて」できる大人とは、違う時間軸と価値観で生きている。
そして、この「思い切り楽しんだ」経験があるからこそ、「ぬれた靴って気持ち悪いんだな」「水たまりってなぜたまるんだろう」「なんで雨って降るのかな」と、世界の不思議を身体で深く感じ取っていくんじゃないかな、とも思うんです。
だから、そんな子どもの特性と、片づけの相性がいいはずがないなって。だって、片づけはだいたいの場合、「後先のことを考えて」やっておくもの。
探し物がどうしても見つからずに待ち合わせ時刻に間に合わなかったり、ティッシュペーパーのストックが何個もダブってしまったり、苦い経験をうんざりするほどしている私みたいな大人なら、片づけの大切さは身に染みて分かっています。
けれど、子どもは散らかしたり遊びに夢中になるなかで、世界を体当たりで学んでいる真っ最中。そんな子どもに「後先考えて片づけておきなさい」だなんて、ハードルが高すぎやしないか?! って、思ったんですよね。
そもそも片づけは、「やりたいと思ったことがすぐにできる環境にすること」。だとしたら、私が子どもたちにやって欲しいのは「片づけ」そのものじゃなくって、まずは子どもが「いま」この瞬間を存分に楽しむことなんじゃないかって思えて。
思い起こせば私自身、子どものころ片づけは壊滅的に苦手で、きれい好きの母からよくため息をつかれていたっけ。それでも、大人になったらなんとかなっている。
それより「いま」を生きる子どもが後先ばかり考えて、夢中になってることを途中でやめちゃうだなんて、もったいない! そんなの大人になってからで十分だわって。
それで、「片づけられる子どもになって欲しい」という期待はいったん脇におこう、と心を決めたんです。
「片づけて!」と言う代わりに。
ただ、片づけることは自分の頭の中を整えることにもなるし、暮らしやすくもなる。ひいては自分自身や周りの人の存在を大切にする尊い行為でもある、とも私はつねづね思っていて。
その良さを身をもって知っている大人としては、やっぱりその魅力も伝えていきたい。だから「環境の方を変えてみよう!」と、「持ちものの数」を見直すことにしました。
娘の持ちものはおもちゃや文房具などが特に多かったため、まずはその二つからスタート。とはいえ、「ものに対する執着とこだわりが並々ならない」という特性もある彼女。
50個以上所有している小さな鳥のぬいぐるみなどにはひとつ一つに思い出が詰まっているようで、選別して数を減らすなんて言語道断!
そこで、「私もゴンも片づけるのが大変になるから、出しておくのはこの棚だけにしてみない?」と提案したところ、乗り気になってくれました。
リビングにおもちゃを置くのは小さなオープンラックひとつだけと決め、季節ごとにチェンジ。毎回新鮮な気持ちになるのか、入れ替えるたび喜んで遊んでいましたね。
そして、子ども自身でしまえるように、わが家の場合はもうひとつ工夫をしました。それは「取り出しやすくする」こと。見た目重視で蓋をつけてしまうと取り出しにくいし、元に戻すにも手間が増える。
さらに、ゴンの場合は「想像して動くことが苦手」という特性から、そこにものが見えていないと「ない! 」となってうまく見つけられなくなってしまうんです。
例えばゴンがテーブルに漫画本を置くとしますよね。その上に家族の誰かが新聞を重ねちゃうと、彼女にとって漫画本は「ない」ものになっちゃう。想像力を働かして「この辺かな」と新聞をどかすということはしないので、見つけられないんです。
だから、「収納のきれいさ」より「探しやすさ」を第一に考えるようにしました。
なるべく「見える化」した収納を心掛け、バックや帽子は壁に有孔ボードを取り付けて吊り下げ収納に、服はすべてハンガーに吊って見渡せるように。すると、出かける前のバタバタも一気に減りました。
見える化したら、前より暮らしやすく!
かくいう私も、棚の奥に2個も3個も同じ調味料のストックがあったり、似たたようなボーダーの服を何枚も買ってしまったり、実は「見えてないと忘れちゃう」という傾向は前からあって。娘の特性をきっかけに、やがて家族みんなが使うものもどんどん見える化していきました。
毎日使う鍋やざるはフックにひっかけて、調味料やおかずは透明の容器に入れ、領収書入れや新聞ラックは蓋のないものに。さらに、日常の食器やカトラリー、筆記用具なども種類別にかごにまとめ、可能な限りオープンラックにしまうことにしました。
すると片手で取れて片手で戻せるうえ、すべて定位置が決まっているので戻す場所も一目瞭然! 子どもも一目で分かるし、私たち大人の片づけのハードルもぐっと下がったんです。夫との家事シェアも、前よりスムースになりました。
それまでは、「片づけ」というと、ものを押入れや棚にきっちり分類してしまい込むことだと思い込んでいました。でも、それだときれいな状態は最初だけで、使いにくいし続かない。
あきらめて布をかけてごまかして、「できない自分」に落ち込んだり。けれど、その方法が私たち家族の特性に合っていなかっただけだ! と気づいたら、ずいぶん気が楽になって。
無理せず気取らない今のやり方にチェンジしてからはぐんと暮らしやすくなり、自然と出費も減って家での時間が心地よくなっていきました。
大変だった時期もあったけれど、娘から試練をもらったおかげで今の暮らしやすさがあるのかもしれへんなあと、今ではありがたく思っています。
――― 子どもが苦手なことって、案外大人もできていなかったり、無理していたりしませんか? 自分たちに合った片づけ方法を見出した美濃羽家。「きれいにする」ではなく「使いやすくする」と考えると、新たな片づけの道が開けるかもしれません!
〈今回のスイッチポイント〉
そもそも、子どもと片づけは相性が悪いものだと心得る。そのうえで環境の方を工夫して、家族にフィットした収納を目指してみよう!
~お気に入りの水たまりの巻~
まめぴー3歳のころのこと。保育園からの帰り道、雨が降るといつも巨大な水たまりができる場所がありました。雨の日は必ず足を浸し、その後お尻まで浸して体当たりで水たまりを楽しんでいたまめぴー。
それがある日、工事で水たまりができなくなってしまい、大ショック! 雨が降るたび「ぼくの水たまり、なくなっちゃったなあ~」となんとも悲しそう。
「お気に入りやったのにねえ~、残念やねえ」と言いつつも、ちょっぴりほっとした母だったのでした。
――― さて、次回のテーマは「子どもにかける言葉」。お楽しみに!
〈写真・イラスト/美濃羽まゆみ 取材・文/山形恭子〉
美濃羽まゆみ(みのわ・まゆみ)
服飾作家・手づくり暮らし研究家。京町家で夫、長女ゴン(2007年生まれ)、長男まめぴー(2013年生まれ)、猫2匹と暮らす。細身で肌が敏感な長女に合う服が見つからず、子ども服をつくりはじめたことが服飾作家としてのスタートに。
現在は洋服制作のほか、メディアへの出演、洋裁学校の講師、ブログやYou Tubeでの発信、子どもたちの居場所「くらら庵」の運営参加など、多方面で活躍。著書に『「めんどう」を楽しむ衣食住のレシピノート』(主婦と生活社)amazonで見る 、『FU-KO basics. 感じのいい、大人服』(日本ヴォーグ社)amazonで見る など。
ブログ:https://fukohm.exblog.jp/
インスタグラム:@minowa_mayumi