パリで出会った、なぜか気になるテディベア
奇跡の再会のお話を。
去年の秋、100枚のお皿の買い付けで次男(荷物持ち)とパリに行きました。
毎週末、早朝からお皿を求めてあちこちの蚤の市を回ったのですが、パリ14区のヴァンヴで開催の蚤の市である事件はおきました。
当日はシトシト雨降り。会場に到着して間もなく、あるひとつのブースで地べたに置かれた段ボール箱の中でずぶ濡れの大きなテディベアと目が合いました。
息子に「ちょっとこのテディベア情けない顔してかわいくない?」というと「かわいいじゃん!」と。
ただ、びしょ濡れだし大きすぎてお皿が持てなくなりそうだったし「帰りまで考えたら?」ということでこの日はすっかり忘れて次の蚤の市へ。
夜ご飯を食べながらも「あのテディベアさぁ、おブスでかわいかったよね」「でもあんなびしょ濡れじゃ誰も買わないよね〜」「いくらだったのかな?」と話すほどなんか惹かれるコだったの。
一週間後に同じ蚤の市に行くと案の定そのコは売れ残っていました。そしてこの日もまた雨でずぶ濡れ。
目が合うし、わたしに連れて帰って欲しいのかな? 連れて帰っちゃおっかな? とマダムに値段を聞くと破格! きっとマダムも連れてって欲しかったんだと思うの。
ずっといるだろうと思っていた、あの子が
まぁ、すぐは売れないだろう、だってずぶ濡れだしずっと売れ残っているし……そう、この考えが甘かったのだ。
事件は起きた!
ひとまわりしてマダムのところに戻ると……えっ! い・な・い。
たった今、売れたって。そういえば、ちょっと前におしゃれな日本人夫婦とすれ違った。
息子に「絶対あの日本人夫婦がママのクマ買っちゃったんだよ! 取り返してくるー」というと「ママのじゃないじゃん」って。
うっ、うっ、たしかにそうだけど。
この事件の日から3日間は後悔で押しつぶされそうでした。
なんであの時買わなかったんだろ……蚤の市でのこんな苦い思いは何度も経験してきたのに。
忘れかけていたころ、運命の出会いがやってきた
それから月日は流れ(半年)。
友人が開催しているイベントに遊びに行った時のこと。
出店者の女性から「そういえば友人夫婦がパリでかおりさんを2回見かけたそうです」と。「へぇ〜、声をかけてくれたらよかったのに」と言ったあとに「はっ!」となったんです。
「そのご友人のお仕事は?」と聞くと、千葉のいすみ市でアンティーク屋さんをやっていて買い付けでフランスに行っていたと。
「ちょっと、ちょっと、店名は?」と、鼻息荒く刑事のように聞いてお店のSNSを辿ると……。
な・な・なんとあのずぶ濡れだった(わたしの)テディベアが2月の投稿の写真にいたんです!
それもすっかり乾いてかわいくなっててー。
きっととっくに売れちゃっているだろう。
でもこのお話をしたくてメッセージを送ると「この子ですか?」と写真が送られてきて、なんとまだ手元にいると!!!
こんなことってありますか?
以下、店主の方から届いたメッセージ。
こんな偶然ステキすぎます。
このクマちゃんはかおりさんのもとにあるべきです。
こんな奇跡、凄すぎます。お金は貰えません。プレゼントさせてください。
もしもあのヴァンヴの蚤の市でわたしが買っていたら
もしもこのご夫婦ではなく他の人が買っていたら
もしもイベントの出店者の女性がわたしに伝えなかったら
もしもすでに売れてしまっていたら
このロマンチックな奇跡の再会は起こらなかったのです。
ご夫婦とは次のパリでアペロをする約束をしました。
そう、出逢ったパリでね。
テディベアの名前?
ヴァンヴの蚤の市からとって『ヴァンヴ』くんにしました。
読んでくださってありがとー!
桜井かおり(さくらい・かおり)
文筆家。大手損害保険会社のOLを経て、東京・代官山「クリスマスカンパニー」にアルバイトとして勤務。その後、系列店のテディベア専門店「CUDDLYBROWN」で店長を務める。2001年3月、東京・松陰神社前で「カフェロッタ」をオープン。心のこもった接客に、全国からお客様が足を運び、お客様から相談やお手紙をもらうことも多かったそう。「カフェロッタ」は2021年9月末に建物老朽化のため、惜しまれつつ閉店。いまは、文筆業や、買い付けなどを行う。著書に『カフェロッタのことと、わたしのこと』(旭屋出版)がある。2冊目の著書『愛してやまないカフェロッタのことと、わたしのこと』(旭屋出版)が好評発売中。
インスタグラム:@kaorilotta
* * *