(『天然生活』2019年10月号 別冊付録掲載)
家にあるもので、よりおいしい食事を
食文化研究家の魚柄仁之助さんの朝ごはんは、夜ごはんよりたくさんいただくというだけあって、品数が豊富です。
長野のご実家で農家をしていた連れ合いのお義母さまがつくる野菜などを「引き受けている」ため、食べたいものをつくるというよりは、家にあるものを召し上がっているそう。
「ちっとも甘くないさつまいもとか、半分傷んだかぼちゃとか、大きく育ちすぎた夕顔の実や、古くなった落花生や大豆など、だれが食べるんだ、というものばかりですが、おいしく料理できると達成感があります」
さつまいもやかぼちゃは、低温で蒸し焼きにして甘さを引き出し、夕顔の実はかんぴょうに、落花生や大豆はすりつぶすことも。
「大量なので、干して保存性も高めます。たいていの野菜は干すとうま味が増すので、使いきれない野菜は、干しておくといいですよ」
乾物は面倒じゃないですか?と伺うと「水にひたしておけばいいだけなのに何が面倒なの?」と。
しまい込まずに目の届く場所に置き、夜寝る前に水を張った鍋に入れておけば、味噌汁の具にもおかずにもなり、便利だと語ります。
また、保存性を高めた食材は、万が一のときには非常食にも。
「知恵と技術があれば、いざというときも、食事をおいしくいただけます。知恵と技術を備えるコツですか? それは人に聞かずに自分で考える習慣を身につけることですね。検索せず、思索と試作をすることが大切だと思いますよ」
季節を問わないふだんの朝ごはん

●押し麦と韃靼そばの実入りひじきごはん ●根菜の味噌汁 ●ゆかり納豆 ●バジルのオイル漬けサラダ ●蒸し根菜2種(かぼちゃ・にんじんの落花生粉あえ) ●大根おろしじゃこのせ ●塩干しとりの蒸しもの ●さば粕漬けの蒸し焼き ●ゆで豆腐のいかの塩辛のせ ●りんご入りきな粉ヨーグルト
ひじきと押し麦、韃靼そばの実を加えて炊いたごはんは、もちもちしたおいしさ。
根菜類によるうま味で、だしいらずの味噌汁と、納豆には自家製のゆかりをかけて。
包丁でくだいてからすった落花生をまぶしたにんじんは、ごまあえより香ばしい。
かぼちゃはじっくりと蒸して甘さを最大限まで引き出した。
豆腐は、一度ゆでておくと大豆の味わいが増し、保存性も高まる。これに、いかの塩辛をのせて、沖縄料理のスクガラス風に。
さばは粕漬けに、とり肉は塩干しして保存性とうま味をアップ。
根菜類の主食と保存食を使ったおかず

●ワンプレート主食(にんじん団子・かぼちゃパテ・ゆで大豆・干しいも) ●乾物の味噌汁(自家製かんぴょう・油麩・凍り豆腐) ●切り干し大根と干ししいたけのごまあえ ●野沢菜の古漬けのごま油炒め ●燻製2種(さばふぐ・とり肉) ●わかめイリチー ●干し柿とレーズンのラム酒漬け入りヨーグルト
米が主食とは限らないのが魚柄さん流。
ゆでてつぶした大豆や、こしてスイートポテトのような甘さと舌触りのかぼちゃなどを主食に。
干してからスモークしたさばふぐ、とり肉は豊かな薫香が。
わかめをしょうがオイルで炒めて大量消費。自家製の切り干し大根は、深い味わい。
魚柄さんの欠かせないもの
経験と知識を備えた手

欠かせない道具はとくにない、と魚柄さん。しいて挙げるなら自身の手だそう。
「大事なのは道具じゃない。自分の手で使いこなせないとね」
〈撮影/元家健吾 取材・文/長谷川未緒〉

魚柄仁之助(うおつか・じんのすけ)
食文化研究家・エッセイスト・ペーパーナイフアーティスト。大学で農業を学び、バイク店、古道具店を経て、文筆業に。著書は、『食育のウソとホント 捏造される「和食の伝統」』(こぶし書房)、『刺し身とジンギスカン 捏造と熱望の日本食』(青弓社)など多数。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです