(『天然生活』2019年10月号 別冊付録掲載)
体をいたわる食事は生きる力につながる
薬膳料理家の小鮒ちふみさんは、有機野菜農業を営む夫と、小学生の息子さんとの3人暮らし。
「息子には、またこれ? といわれるくらい、毎日、同じような朝ごはんなんですよ」と笑いますが、ごはんに味噌汁、漬物、お茶のメニューは、体の奥から温まり、安心できるおいしさです。
実は小鮒さん、25歳のときに進行性の胃がんを患い、胃の3分の2を切除しました。体をいたわる薬膳料理に興味をもったのも、病気がきっかけだったといいます。
「病院で大好きな栗ごはんが出たんです。食べたかったのに、目を離したすきにお見舞いに来ていた妹に食べられてしまって。私、泣きそうなほど悲しくなったんですよ。そのときに、食べたいという気持ちと生きたいという思いは重なるんだな、と身をもって知りました」
以来、心身を健康に保ち、自分の生きる力を十全に発揮するため、食事を大切にした生活を送っています。
小鮒さんの食の基本は、夫の栽培する旬の野菜。そのまま料理に使うだけでなく、3%ほどの塩で漬け、毎日、手で混ぜながら乳酸発酵させてつくる漬物は健康の源。
発酵食は善玉菌を増やし、胃腸の働きを助けてくれるので、小鮒さんの強い味方なのです。
「発酵食のお漬物と、毎日の体調に合わせていただく養生茶は、朝ごはんの定番です。こうした食事に加え、適度な運動と前向きな心持ちで、自分の命の舵取りを自分でしていきたいですね」
旬の野菜と発酵食をいただく
●青梗菜とごまのおにぎり ●かき菜の味噌汁 ●漬物(大根・にんじん・青梗菜) ●よもぎ番茶
畑でたくさんとれた野菜を新鮮なうちに塩漬けにした漬物が、ごはんの定番おかず。
乳酸発酵した漬物の甘酸っぱさに箸が進む。
青梗菜の漬物は刻んで白ごまを加え、おにぎりの具にも。自家製麴でつくった手づくり味噌の味噌汁の具は、北関東の伝統野菜・かき菜。
「青菜は火をとおすことでたくさんいただけますし、胃腸にも負担がかかりにくくなります」
お茶は、番茶によもぎの葉を加えたもの。よもぎは、冬にため込んだ余分なものの排出を助けてくれる、春に取り入れたい優秀食材。
パンでリラックスする休日
●全粒粉のパン ●豆乳クリープスープ ●ポンカン ●ゆず白湯
「小麦は心身の興奮をゆるめる働きがあるので、休日はパンにすることが多いですね」と小鮒さん。
農家になるかパン屋になるか迷ったくらい、パン好きという夫のお眼鏡にかなったパンは、知人のパン屋さんのもの。
全粒粉の小麦粉を使っているので、香り高く、栄養価も高い。
旬野菜の豆乳スープには、お子さんが喜ぶ温泉卵を上にのせて。
旬の柑橘の果物と、白湯にゆず果汁を加えた、ゆず湯を。ゆずは体を温める作用があり、体内の気のめぐりをよくしてくれるので、ストレス発散にも。
小鮒さんの欠かせないもの
養生茶
朝、必ずいただくのは、体をいたわるお茶。
冷えにはよもぎ、疲れには黒豆、気分の落ち込みにはバラなど、その日の調子に合わせて選ぶ。
〈撮影/元家健吾 取材・文/長谷川未緒〉
小鮒ちふみ(こふな・ちふみ)
薬膳料理家。国際中医薬膳師。台所養生共室主宰。20代で胃がんを患い、養生法を学び、実践。東日本大震災を機に農業の道へ。栃木・那珂川町の古民家で暮らし、有機農家の夫と「小鮒農園」を運営、台所担当として農食一体を軸に、養生法を伝えている。http://kobuna-farm.com
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです