機械化が進んで減った“会話”
ある雨の日、食材の買いだしに出かけた時のこと。
わたしの後ろをリュックを背負った小学校中学年ぐらいの女の子三人がきゃっきゃっと絡み合うように歩いていました。習い事に行くのかな?
するとその中のひとりの女の子が「なんか冬の雨の匂いがする〜」と言ったのです。それに応えてもうひとりの女の子が「うん。雨って苔の匂いがするよね〜」と。(たしかに!)
その会話がとっても素敵で前を歩きながらなんか心があたたかくなりました。
彼女たちのやりとりをもっと聞きたかったけど女の子たちは路地を曲がってしまって……。わたしもついて行きたかったぐらい。
というのはね、最近ちょっと気になっていることがあって。
コロナ禍もあって(あと、人件費削減)、いろんなことがどんどん“人対人”でなくなってきているでしょ。
たとえば、近所のスーパーもコンビニのレジもどんどん機械化されて店員さんと会話しなくて済む。ファミリーレストランも注文がタッチパネルのうえにテーブルに運んでくるのもロボット。回転寿司も……。
早いのはいい。でもその反面、人と人がちゃんと会話(受け答え)ができなくなってきているんじゃないかと。
会話しないのが普通に???
先日、コンビニで並んでいるとき店員さんが若いお嬢さんに「レジ袋はご入用ですか?」と聞くとそのお嬢さんは口で答えるのではなくて首を振って返事をしていました。
昔は、スーパーで急いでいるときに限ってレジでわたしの前のおばちゃんがレジのおばちゃんに全く関係ない話をし出して心の中で『おいおい、勘弁してよ〜』と、そのレジに並んだ自分を運が悪かったと思ったもんです。
今は、スーパーでお金を払うのも機械。流れ作業で早くて間違いが減ったのはいいけれど、でもやっぱり淋しくもある。
これが当たり前となってしまっている子供達は、きっとどんどんあいさつや会話ができなくなっちゃうんだろうなって心配になっちゃう。
言葉で伝えたいのに、伝えられないもどかしさ
注文はタッチパネル、運んでくるのはロボット、帰るまで食器は下げにこない、最後の支払いも機械。
「ごちそうさまでした」「おいしかったです」と伝えるタイミングがない。
うーん、これでいいのかなぁ……。
だからパリのマルシェで「このいちじく美味しいよ! 食べてごらん」と言って味見をさせてくれたり、「ひとつプレゼント」とウインクして手のひらに苺のせてくれたりすると、『そう! これこれ。この会話が大切で楽しいのよ!』と感動するのです。
馴染みの近所のスーパーがどんどん機械化されても、わたしはレジの人に「こんにちは」「袋は持ってまーす」「ありがとうございます」は口に出して伝えています。
やっぱり気持ちを言葉にして伝えるって人間らしくて素適なことだから。
言葉ってすごいパワーがあるからね。
読んでくださってありがとー!
桜井かおり(さくらい・かおり)
文筆家。大手損害保険会社のOLを経て、東京・代官山「クリスマスカンパニー」にアルバイトとして勤務。その後、系列店のテディベア専門店「CUDDLYBROWN」で店長を務める。2001年3月、東京・松陰神社前で「カフェロッタ」をオープン。心のこもった接客に、全国からお客様が足を運び、お客様から相談やお手紙をもらうことも多かったそう。「カフェロッタ」は2021年9月末に建物老朽化のため、惜しまれつつ閉店。いまは、文筆業や、買い付けなどを行う。著書に『カフェロッタのことと、わたしのこと』(旭屋出版)がある。2冊目の著書『愛してやまないカフェロッタのことと、わたしのこと』(旭屋出版)が好評発売中。
インスタグラム:@kaorilotta
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