(別冊天然生活『歳を重ねて楽しむ暮らし』より)
月に1回、1週間父のもとへ
「介護は終わりの見えないマラソンのようなもの。あのとき、仕事を辞めて介護だけの生活を選んでいたなら、いまごろ、つらかったと思います」
そう話すのは東京~札幌間で認知症のお父さまの遠距離介護を続けてきた金子文恵さん。妹は実家のそばに住んでいるものの、子育ても仕事も忙しく、食事の面倒までは難しい。一方の金子さんは東京にひとり暮らし。
実家に戻るべきなのか、いやいや自分の暮らしは大切にしなくてはと、はざまで揺れ動きました。結果、自分自身を大切にしながら父と向き合い、無理せずやってきたことでいまの私がある、と話します。
とりあえず、月に1回、1週間ずつ帰ることにして、金子さんが食事の面倒と状況把握を、妹は生活費、光熱費ほか、お金の管理をすることに。
遠距離介護から生まれた、介護冷凍弁当
「東京に戻るときには父の好物をたくさんつくっておかずごとに冷凍して、食事の様子を見ていました。でも、なかなか減らないんです。50kg台前半だった体重が40kg台になり……」
すると、「もしかしたら、おかずを選ぶのが面倒なんじゃない?」といってくれた友人が。歳を重ねると、ただでさえいろんなことが億劫になりますが、認知症の場合は輪をかけて顕著です。そこで、食事のあり方を考え直したそう。
そこから生まれたのが、お弁当のようにひとつの容器にセットして冷凍庫につくりおく方法でした。
「父のサイクルは、一日1食をこれに当て、1食食べたら冷凍庫から冷蔵庫に移し、解凍してからレンジで温めて食べる流れ」。こうしてひとり暮らしのサイクルに1年くらいかけて慣れた父は、体重が60kgに戻りました。
「この状態はずっとは続きませんし、いつかは食べられなくなる日も来るでしょう。なるべく父が快適に、元気に暮らしてくれるとよいなと思います」
〈撮影/公文美和 取材・文/吉田佳代〉
金子文恵(かねこ・ふみえ)
ファッションデザイナーを経て、もてなし好きが高じて料理の道へ。著書に『何しろ、親のごはんが気になるもので。』(家の光協会)、『免疫力があがる「昆布水」レシピ』(高橋書店)など。「遠距離介護と冷凍おかず」のレッスンも開催。
インスタグラム:@ fumie823_cooking
※ 記事中の情報は取材時のものです
◇ ◇ ◇
いつまでもイキイキと暮らすためには、自分の「いま」を楽しむことが大切。日々の暮らしのこと、食事のこと、健康のこと、ファッションのこと……。歳を重ねたからこそ見つけた楽しみや工夫を、こぐれひでこさん、石黒智子さん、引田かおりさん、紫苑さん、セツばあちゃんなど、8人の方に教えていただきました。年齢別、食べ方指導、栄養バランスのよい献立、転ばないためのお手当て、脳のセルフケア、歳を重ねたいまの装い、介護のことなどもご紹介しています。