(『天然生活』2019年11月号掲載)
きっかけは小さな出合いから
「それははっとするほど香り高く、色鮮やかで、これまでに出合ったことのないドライハーブでした」
菓子研究家の長田佳子さんが石川県のハーブ農園・ペザンを知ったのは4年前。イベントのため訪れた金沢で、地元産のハーブを探していたときのことでした。
その品質の高さに驚いただけでなく、ここが福祉施設と連携してさまざまな障がいをもつ人たちを受け入れているハーブ園と知り、さらにびっくり。
実は長田さんも、かねてより「いつか障がいをもつ方たちとともにハーブを育てて、お菓子をつくることができれば」との願いを温めていたのです。
農業と福祉の連携から「農福連携」と呼ばれるこの取り組み。農業にとっては担い手不足を補い、福祉の側面からは農作業によるリハビリ効果が期待できると、いま全国の農業法人や福祉施設で少しずつ実践が重ねられています。
しかし、そのほとんどが米や野菜を主体とするもので、ハーブでの農福連携はとても珍しい存在です。運命的な出合いにご縁を感じ、その後もハーブを購入するように。今回ようやく、仕事中の皆さんのもとを訪ねることができました。
農福連携が育むもの
「得意」が重なり合えば、「違い」を支え合える
朝9時過ぎ。ペザンに到着すると、すでにじりじりと日差しが照りつけ、蟬の声が高く響いていました。ここは金沢駅から車で約20分の場所にある干拓地「河北潟」。日本海にほど近く、海からの風が暑さを和らげてくれます。
トケイソウが咲くエントランスを抜けて、ハーブ園へ。すぐに「おはようございます!」と元気なあいさつが聞こえてきました。
声の主は「わりちゃん」こと、割田晃司さん。知的障がいをもつ割田さんも、ここでは抜群の集中力を生かし、草刈りやハーブの袋詰めのエース的存在です。
ハーブの力に助けられて
太平さんはきれい好きで、農具を片づけるのが上手。大六さんは口数は少ないけれど着実に仕事をこなす堅実派。
「草刈り機の音を聞いていると心が落ち着く」と話す豊さんは、ここでの仕事をきっかけに外に出られるようになりました。
ひとりひとりの「得意」が重なれば、何も欠けることなどないと、その楽しげな姿が私たちに静かに教えてくれます。
「いつか彼らが障がいなんて意識せずに、胸を張って生きていける社会にしたい。彼らをヒーローにしたいんです」と、澤邉さん。
そのために、個性に寄り添う仕事のかたちを見つけることが、農福連携一番の役割と話します。
「皆さんの姿を見て、もう迷わなくていいと思えました。私も、私のできることを重ねていきたい」
差別のない社会とは遠い目標ではなく、日々の小さな出会いや踏み出す一歩の連なりから、ゆっくりと育まれるのかもしれません。
〈撮影/森本菜穂子 取材・文/玉木美企子〉
訪ねた人
長田佳子(おさだ・かこ)
菓子研究家。かねてから障がいのある方との菓子づくりに関心を寄せ、菓子づくり指導のボランティア経験も。自身の菓子に欠かせない良質なハーブを求めるなかで、ペザンと運命的な出合いを果たす。近著に『全粒粉が香る軽やかなお菓子』(文化出版局)など。
ハーブ農園 PAYSAN(ペザン)
石川県河北郡津幡町字湖東197
☎076-289-6287
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです