(『天然生活』2020年8月号掲載)
持っているものを工夫しながら、暮らしを紡ぐ
竹かごには、ひも付きの細長い袋とA3サイズほどの袋、それより小さいサイズの袋も1枚。「今日は菓子パンも買おうかな?」なんて日には、ふた付きのホウロウ製容器も詰めて。これは、阿部慎平さんと下山千絵さんが、パン屋さんに行くときの持ち物です。
ふだんは札幌で、「トロッコ一級建築士事務所」として、住宅や店舗の設計を手がけ、土日だけ「はかり売りとものさし トロッコ」として、食材や日用品の量り売り店を営んでいる、ふたり。店は、お客さんが買い物袋や容れ物を持参するスタイルです。
「幼少期から、“ごみ”というか、ごみになることに対して、疑問があったんです。たとえば生鮮品を入れたポリ袋。中身を取り出したらすぐに捨ててしまうそれは、はたしてごみなのだろうか?と」
寸前まで新品で、役割を果たしていたモノが、あっという間に“ごみ”に変わる状況に、阿部さんは違和感を覚えました。
一方、建築の仕事に携わるなかで、膨大な廃棄物を目にした下山さんもまた、ショックを受けます。
以来、ふたりの暮らしは、自然とごみを出さないように心がける毎日に。すでに持っているものを工夫しながら、暮らしを紡いでいます。
日々、ゼロウェイストを目指して
そんなふたりのふだんの買い物は、使い捨ての袋をもらわないように果敢に挑戦する毎日でも。
「パン屋さんはいまのところ100%、持参の布袋でOK。餅屋で和菓子を弁当箱に入れてもらったこともあります。ただ、時間がかかる場合もあるので、空いている時間帯を選んだりして、お店の負担にならないように心がけています」
自分たちの、“気持ちよさ”を大事に、その感覚に正直に。ふたりは今日も、調和的に「ゼロウェイスト」を目指しています。
「トロッコ」の家で楽しむ工夫
買い物は、容器持参
スーパーにエコバッグを持っていくのはもちろん、買い物に行くときは、複数枚の布袋や容器を持参するのが日常のふたり。
「布袋は、食べ物専用の袋と決めて、それ以外のものを入れないようにすれば、抵抗がなくなりますよ」
量り売り店でなくても、聞いてみると意外と持参した容れ物に入れてくれるそう。その際は、相手の間合いや状況を見て、「ごみを出したくなくて〜」とひと言添えるようにも。
「トロッコ」の家で楽しむ工夫
酒びん・空きびんをフル活用
「自分たちの店で量り売りしている道産の米油や菜種油は、ワインなど、飲み終えた酒びんを容れ物として使っています。
「使用後すぐのびんなら、ささっとすすぐだけできれいに。油ものが入っていなければ、なんでもいいです」
また同じ種類の油が入っていたプラスチックボトルがあるならそれでもよいのだそう。「家にあるものを利用するのがいちばん」とふたり。ほかの空きびんも活用しています。
「トロッコ」の家で楽しむ工夫
自然のものも利用する
「使い終わっても土に戻せば自然に還る」植物は、ごみが出ない素敵な素材。
借りている畑の周辺に自生する植物の葉で、食べ物を包んだり、仕切りに使ったりすれば、「見た目も香りもよくなります」。
ドクダミやオオバコはお茶にしたり、くるみの葉や玉ねぎの皮は草木染めの材料にも。
植物図鑑片手に野草探しも、ふたりのライフワーク。大いに楽しみながら、大いに暮らしに取り入れています。
〈撮影/古瀬 桂 取材・文/遊馬里江〉
阿部慎平(あべ・しんぺい)・下山千絵(しもやま・ちえ)
ともに一級建築士。「ゼロウェイスト」をコンセプトに、札幌の「space1-15」にて、土日のみ「はかり売りとものさし トロッコ」を営む。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです