(『天然生活』2020年8月号掲載)
暮らしのなかで生かし切る、着物の奥深さに魅せられて
タンスの肥やしになっていることが多い着物を現代に生かそうと、洋服にリメイクする活動を行う松下純子さん。
今風のシルエットやモダンな柄を上手に生かしたデザインは、これが着物!? と驚くほど、私たちの暮らしにさらりとなじみそうなものばかり。
「祖父が着ていた古いボロボロの着物を自分でほどいてみたところ、すべて長方形のパーツで構成されていて、着物ってこうなってるんだ! と衝撃を受けたことが始まりでした。
着物の美しさ、愛らしさだけでなく、昔の職人が精魂込めた織りや染め、日本人の体形や収納の理にかなった形、古くなっても簡単に捨てず、暮らしのなかで最後まで生かし切る知恵といった奥深さに魅せられ続けています」
着物の幅はおおよそ33〜38cmと決まっており、すとんとした直線のみで構成されているので、元の形をできるだけ生かすこともこだわりのひとつ。
丸みやカーブを出したい時は、折り紙のようにたたんだり、絞ることで、生地を切り落とさないように心がけているそう。
先人の仕事に敬意を持って寄り添う
手に入れた着物をほどき、洗い、陰干しするまでの“地ならし”は松下さんがとくに大切にしている工程。
ほどいた着物は片袖をまず洗い、色落ち具合や、乾いた後の縮み具合をチェックしつつ、つくるアイテムを考えます。
こんな服をつくりたい! という自分の思いが先にあるのではなく、先人の仕事に敬意を持って寄り添うことが、創作の根っこにあるのです。
「着物には日本の伝統、風土、技が全部入っています。ほどく作業だけでも楽しいので、そこから始めても。四角なので、テーブルクロスやクッションもつくれます」
松下純子さんの家で楽しむ工夫
現代になじむよう着物をリメイク
奥の棚には、生まれ変わる時を待つ着物地がずらり。
着物リメイクでは、まずは素材となる着物の糸をほどき、洗って陰干しし、アイロンをかけて地直しする前工程が必要。このときに生地が持つ特性をよく見極め、どのように生かすかを考えることが大切だそう。
着物の幅はおおよそ33~38cmと決まっているため、小さなスペースがあれば作業できるのも魅力のひとつ。
松下純子さんの家で楽しむ工夫
着物をほどく愉しみ
昔の着物は手縫いなので、ほどくのは意外と簡単。縫い目を見ていると大らかだったり、繊細だったりと個性があり、仕立てた女性たちに親しみがわきます。
「ほつれそうな個所が何度も縫われていて、『この人、心配性やなぁ』と思ったことも(笑)」
解体できたら、まずは片袖を洗い、色落ちや縮み具合をチェック。液体石鹸のほかに重曹を入れると、ナフタリンなどのにおいも少し取れます。
松下さん流、古布を生かす小物づくり
昔の女性が傷んだ着物を座布団などにつくり替え、ずっと大切にしたように、小さなはぎれも捨てずに活用します。
はぎれをつないで、オリジナルの反物に
同系色の端切れをジグザグミシンでつないで、パッチワーク風の反物に。
「できるだけハサミを入れたくないのと、生地の幅が少しずつ違うのが面白いので、あえてそろえないままにしています」
好きなところで切って、ストールやスカーフの素材として活用。
はぎれを組み合わせて、おざぶ状の針刺しに
時間があるときに8cm角にカットしておいたはぎれを2枚選び、縫い合わせて綿を入れ、針刺しを手づくり。表裏で生地の組み合わせを考えるのも楽しい。
「ぺたんと薄いので仮止めクリップも挟めますし、お菓子缶を再利用した、小さめのお裁縫箱にも入れやすいです」
〈撮影/辻本しんこ 取材・文/野崎 泉、鈴木理恵(TRYOUT)〉
松下純子(まつした・じゅんこ)
「Wrap Around R.」主宰。現代の暮らしになじむデザインの着物リメイクを提案。『型紙いらずの浴衣リメイク』(河出書房新社)ほか著書多数。
webサイト:http://w-a-robe.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです