小さな住まいでの家具選び
新しい住まいに移り半年がすぎました。いまの部屋は、以前暮らしていた家より狭く、スペースが1/3ほどです。物が少ないとは言え、1/3になった広さにいままでの家具や生活用品はなかなか収まりません。それもあり「どうすれば心地いいか」を見つけるため、この半年の間に家具のレイアウトを既に何度か変更しています。
最初は、メインのテーブル(食事仕事兼用)は、キッチンに近いところに置いていました。いまは、テーブルはそこから離し窓側にあります。それに伴い、窓際にあった寝具台をキッチンのそばへ移動しました。テーブルと寝具台の仕切りにしていた棚は、調理器具を置くためキッチン内へ。
実際に暮らしてみて、居心地や使い勝手を見たうえで「こちらのほうがいいかも」と、ふと思ったら、家具のレイアウトを変えるようにしています。
こんなに家具を気軽に移動できるのは、家具そのものが自由に動かせるデザイン・サイズだからに他ありません。
いま使っている家具は、以前の住まいの時に造ってもらいました。年齢とともに大きな家具、重い家具があつかいづらくなり、移動しやすく、幾通りにも組み合わせができるように考え、形にしてもらったものです。
いつものように模様替えしようとして気づく、家具の重さ
家具を動かし室内のレイアウトを変えるのが以前からすきなのですが、年齢とともに重いものは動かすのが大変になってきます。また、気をつけていないと、ある日、腰にくることがあり、若い頃のように何気なく物を移動しようとかがんだとたん「あっ」となることは、一定以上の年齢の方は経験があるのではないでしょうか。そんなこともあり「家具にわたしを合わせる」のではなく「わたしに合う家具」にしたのです。
例えば、いまメインにしているテーブルは、細長い長方形のテーブルを3本組み合わせて大きなテーブルにしています。ここに住みはじめた当初は、2本をテーブルにし、残りの1本には鏡を置きドレッサーのように使っていました。
4つあるチェストは、同じサイズのため、横につなげれば仕切りにもなり、飾り棚、本棚にもなります。背面を合わせれば、ちいさな台に変身。最初は仕切りにしていましたが、いまは調理器具置きと、料理台のようにして使っています。
年齢とともに使い勝手のよさは変化します。家族形態や住まいが変わることもあります。長く使いつづけるのも大事なことですが、年齢を重ねていくなかで新たに生まれる問題やストレスに関しては、わたしはその都度、見直し、無理のない選択をするのがいいと考えるようになりました。また、間取りや家具のレイアウトについても、従来の枠や考えからはずれた方がいい時もあります。基準は、そこに住まう人の「心地よさ・使い勝手・健康」優先です。
元気な時ばかりではありません。病気やケガをした時のこと。こどもたちが独立したあと。仕事を辞めたのち。これからの変化は様々です。そのなかで家具を見直す、部屋の動線・レイアウトを再考するのは、暮らし方、生き方の方向性を見つめ直すことにつながります。まずは──こちらのほうがいいかもしれない──と思ったら、やってみるのがなによりです。
60歳までのメモ
1 重い家具、大きな家具をこれからも使うか検討してみる
2「こうしたほうが使いやすい」を想像してみる
3 「家具に自分を合わせる」から「自分に合う家具」を考えてみる
4 これから10年先を思い浮かべてみる
5 自分にとっての「心地よさ・使い勝手・健康」を優先する
家具制作/ANTPOEME
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、現在は東京在住。設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。主な著書に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19