住まいを小さくして、適温をキープする
住まいをコンパクトにしたのは、暮らし全体をダウンサイジングしたほうがいいと考えたからです。理由はいくつかあり、そのひとつが住まいをちいさくすることで、快適な室温で過ごせると思ったからです。
暑い季節は涼しくなるよう。寒い時期はあたたかく過ごせるよう。古から人は体感からも視覚からもその工夫をしてきました。四季の恵みを受けとり、できるだけ自然に沿いながら、暮らしやすい環境を整える。
若い時は、季節を大きく受け入れ、そこに楽しみを見つけることがたやすくできました。それが、いつしかむずかしくなってきたことを感じはじめています。
現実的に夏の暑さに関しては、以前に比べ年々気温が高くなり、無理をすると体調をくずしがちです。暑さで眠れない。気持ちのおだやかさが失われる。考えているより体力を消耗する。そういった経験をすることが増え、むしろ素直に「自分を守り、大切にしていく選択のほうが、自然なのではないか」と考えるようになりました。生存本能に従う根源的な感覚かもしれません。また、そう考えるようになったのは、一般的な見方や言い方からすると、自分が弱者(もう少しやさしい表現があるといいですね)になりつつある年齢だからなのでしょう。
無理をせず、機嫌よくいられることを優先する
誰しも過ごしやすい気温、室温、湿度があります。体質や生まれ育った環境でもちがってきます。気温の変化も比較的大丈夫という方もいれば、わたしのように、寒いと体調が優れないというタイプもいます。一概に言えるものではないので、自分に合わせていけばいいのです。
わたしは、自分らしくいられるように暮らしたいと以前から思っていますが、その自分らしくが「気持ち」プラス「身体」「体力」も含まれるようになってきました。体の声に耳を傾けたほうが、機嫌よく、気持ちよく、かろやかにいられます。
40代。住まいには、薪ストーブがありました。火とともに暮らすたのしみ。薪が燃える音に耳を澄まし、芳しい木の香りのなか過ごす。室内は、ふわりとあたたかく、五感がひらいていくのがわかります。燃え終わった灰は土に戻して──。
いま思うと、それができたのは、メインの熱源・エネルギーがあったこともあります。薪ストーブだけでは、むずかしかったでしょう。体力もあり、準備も手間も「楽しみ」に変換できました。いまも薪ストーブのある暮らしはすてきだなと思いながらも、ひとりで暮らしている現在、歳を重ねていくこれからのことを思うと、熱源もエネルギー(エネルギーそのものも、自分自身も)もシンプルで少ない暮らしが、結局いいのでは、と思い至るようになりました。
住まいをコンパクトにして最初に感じたのは、室温が一定に保ちやすいことです。冬はあたたかくしやすく、夏は涼しくでき、その後、適温がつづきます。集合住宅で機密性が高いこともありますが、エアコンを数時間つけておくと、その後エアコンなしでも快適なのです。実際、エネルギーにかかる費用は、以前と比較すると夏は1/3、冬は1/5になりました。
ストーブのあたたかさもすきですが「火の元注意」が不可欠になります。うっかりが日頃から多いので、今後、使う暮らしになった時は、年齢を考慮しながら「より要注意」です。
その時にならないとどんな風景が広がっているかは誰にもわかりません。わたしの60歳とだれかの60歳はちがいますし、どこで暮らすか、誰といるかでも変わります。大切にしたいのは「自分がどんな風景を見たいのか、どんな状態でいたいのか」と自分で思いをめぐらせることではないでしょうか。
機嫌よく、気持ちよく、かろやかが、室温で叶うならば、その選択もいいと感じています。
60歳までのメモ
1 自分が健やかでいられる状態を考える
2 快適な住環境を見直してみる
3 家族構成や仕事、体力の変化を考慮する
4 健康を過信しない
5 機嫌よく気持ちよくかろやかに
広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)
エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19