(『天然生活』2023年12月号掲載)
桐染を代表する染色技術“かご染め”とは
古くから織物の町として発展してきた群馬・桐生にある染色工場「桐染(KIRISEN)」の入口をのぞくと、染色釜から白い湯気が立ち上っています。
創業は1919年。現在は、4代目の平本ゆりさんが、約100年続いた技術を継承するとともに、技術を生かした新たな挑戦をしています。家業を継ぐ前は、東京でグラフィックデザインの仕事をしていました。
「継いだ当初はもう、技術だけでも残せたらいいっていう思いでした。いまではうちの強みでもある“かご染め”も、何模様かわからないとお客さまからの反応が鈍くて、それが悩みの種でもありました」
しかし、「弱み」と思えることを「強み」に変えて、それを魅力的に見せることは、前職のグラフィックデザイナー時代に幾度となく経験してきたこと。
「何より、うちのよさや技術の高さは自分がよくわかっているので、とにかくかご染めの魅力をずっと伝えつづけました。小さいころ、祖父(2代目)がよく話してくれたんです。
『かご染めはやり方が無限にあるんだ』って。その言葉を思い出して、発想を転換すれば、必ず伝わるはずだと」
代々受け継がれてきた、桐染を代表する染色技術“かご染め”の様子
そうして生まれたのが“マーブル染め”です。きっかけは、他社製品をかご染めしていたときに染料が飛んでしまい、買い取りが必要なB品が出てしまったこと。たいていは処分されるB品をむだにしたくないという思いがありました。
「よくよく見るとその染料の飛び方が面白かったんです。これは新しい表現になるんじゃないかと試作を重ねるうちに、生地の上で染料を混ぜることを思いつきました」
色が混ざることで何色もの花をちりばめたような美しさがあるマーブル染めは、浴衣として桐染の夏の定番商品に。ゆりさんが初めて世に送り出したオリジナル商品になりました。
サステナブルな物づくりは、日本文化が育んできたもの
浴衣を選んだことにも理由があります。桐生で育ったゆりさんにとって着物は身近なもの。仕立てる際も端切れが出ず、汚れたら染め直せばよく、親子代々着て繋いでいけるサステナブルなものだと日ごろから感じていました。
「繊維ごみを出さず、年齢や時代に流されないもので、気軽に手に取ってもらえる。そしてむだを出さない日本文化のよさを、浴衣でなら伝えられるんじゃないかなと」
浴衣の販売が軌道に乗り始めた矢先、コロナ禍に。イベントへの出店も減っていき、情報発信の場を失いつつありました。そのとき思い出したのが、以前イベントで好評だった“染め直し”でした。
「染料の組み合わせ次第で、色は無限につくれるので、マンスリーカラーという形で、12カ月12色で染め直しをやってみようと思いつきました。色は『花鳥風月』の考え方を意識して決めています。季節の移り変わりを楽しむ感覚を大切に、そのときどきの空気感に合う色を選ぶようにしています」
反応は上々で、注文も増えています。なかには毎月注文する方や、形見の洋服を持ってくる方も。
「染色が人の役に立てているなって、染め直しを始めたことで初めて実感できました」
完成品を手にして、新品の服を買うよりもうれしいという人も多いのだとか。愛着があって手放せずにいた少しくたびれた服が、鮮やかさを取り戻し、再び袖を通せる喜びは、新品を買うことに勝るのかもしれません。
お気に入りを色違いで買う前に、一度、染め直しを試してみても。自分だけの特別な一着になるかもしれません。
桐染(KIRISEN)
電話 0277-44-4669
営業:9:00〜17:00
休み:土・日曜、祝日
https://kirisen.theshop.jp
<撮影/近藤沙菜 取材・文/鈴木香里>
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです