• 家を暖かく整えて、冬を迎える準備を少しずつ。寒い季節を少しでも快適に過ごすために、楽しい工夫の数々を長野で暮らすクラフト作家の上原かなえさんに伺いました。
    (『天然生活』2022年12月号掲載)

    北欧で出合った冬の過ごし方を長野で

    「家にこもって、ものづくりに没頭できる」。クラフト作家の上原かなえさんにとって、冬は大歓迎の季節。

    「手を動かすことが大好き。許されるなら、机に向かってひたすら手仕事をしていたいんです」

    東京から長野・御代田町に移り住んだのは、いまから5年前。義両親の移住で縁が生まれた高原の町。

    「季節がめぐるたび、訪ねては『春もいいね、冬もいいね』と四季ごとのよさを知り、『私たちも』と越してきたのです」

    ペーパークラフト、編み物、織物などさまざまなものづくりを深めてきましたが、いま注力しているのはヒンメリ。乾燥した麦わらに糸を通して、多面体をつくるフィンランドの伝統的な装飾品です。

    30代でデンマークに渡り手工芸を学んでいたとき、植物からできる手工芸のひとつとして、麦わら細工を知り、それから北欧の旅行中に、ヒンメリと出合いました。

    「洗練と素朴が共存する佇まいに強く惹かれました。自分で植物の種から育てて、収穫して素材をつくる奥深さもあり、季節に寄り添う手仕事というのも魅力です」

    フィンランドでは、もともとヨウルと呼ばれる冬至のお祝いに飾られていたというヒンメリ。

    「ただの装飾品ではなく、神聖なエネルギーが集まるものという意味があるんです」

    冬が長く日の光が貴重なフィンランドでは、麦わらは太陽と豊穣のシンボル。それをつなげたヒンメリは「光のモビール」とも呼ばれているのだとか。

    素材のライ麦は、冬に種をまき、夏に収穫。天日干しで乾燥を終えた秋から冬にかけて制作され、出番を迎えます。上原さんも麦栽培に携わり、春夏秋と準備を重ね、冬のゴールを目指しているのです。

    さて、デンマークで学んだことは、手仕事だけにあらず。寒い冬への心構えも教わりました。

    「北欧では『天気が悪い』という表現をしないんです。晴れている、雪が降っているという状況を表す言葉はあっても、それがグッドかバッドかは表現しない。寒すぎたり、暑すぎると感じたら、それは当人の装備が合っていないだけ、という考え方なんです。冬こそまさにそう。着るものや家の装備を工夫して備えさえすれば、ちっとも怖くない。そう、デンマークの人たちに教えてもらいました」

    上原かなえさんの、冬の楽しみ5つ

    01_冬の楽しみ
    りんごのリレーを追いかける

    信州はいわずと知れたりんごの産地。近隣にはたくさんの農家があり、秋から冬にかけて味わい尽くします。

    画像: 元スタイリストの鮏川理惠さん(右)夫妻が営む「りんご家 SUKEGAWA」へ。「甘みとみずみずしさがすごい!」

    元スタイリストの鮏川理惠さん(右)夫妻が営む「りんご家 SUKEGAWA」へ。「甘みとみずみずしさがすごい!」

    「北欧では、家の庭に必ずといっていいほどりんごの木があり、旬の時季にはおすそわけをよくいただきました。ここでも、晩夏のシナノリップから晩冬のサンふじまで、品種のリレーを追いかけ、存分に楽しんでいます。もぎたてのおいしさは格別で、りんごの魅力を再発見しました」

    画像: お気に入りのりんご園「りんご家 SUKEGAWA」は隣の小諸市にあり、シーズン中、家族で何度も訪れる

    お気に入りのりんご園「りんご家 SUKEGAWA」は隣の小諸市にあり、シーズン中、家族で何度も訪れる

    画像: 最近はまっているドライりんご。芯をくりぬいて皮つきのまま薄く切り、100℃のオーブンで裏と表それぞれ約1時間ずつ加熱

    最近はまっているドライりんご。芯をくりぬいて皮つきのまま薄く切り、100℃のオーブンで裏と表それぞれ約1時間ずつ加熱

    02_冬の楽しみ
    麦わらオーナメントでカードづくり

    麦わらを組み合わせて、幾何学模様をつくるストロースター。

    「立体的なヒンメリより気軽につくれるので、家事の合間などに少しずつつくり貯めています」

    画像: ヒンメリづくりはフィンランドの第一人者、エイヤ・コスキさんに教わった

    ヒンメリづくりはフィンランドの第一人者、エイヤ・コスキさんに教わった

    完成品はクリスマスツリーのオーナメントにしたり、紙に貼ってクリスマスカードにしたり。

    「麦わらを使った手仕事は、ヨーロッパでも農閑期に麦農家の方たちがつくっていたようで、日本のざるやかご編みにも通じるところがありますね」

    画像: コルク板などにクギを打ち、間に麦わらを渡して形をつくっていく(写真奥)

    コルク板などにクギを打ち、間に麦わらを渡して形をつくっていく(写真奥)

    画像: 上原さんのヒンメリ作品。右はリース、左はクリスマスツリーがモチーフ

    上原さんのヒンメリ作品。右はリース、左はクリスマスツリーがモチーフ

    03_冬の楽しみ
    薪ストーブの薪を用意

    標高が高いため、「冬の寒さはなかなか」という御代田町。そんな寒さを忘れさせてくれる「最強の暖房」として頼りにしているのが、薪ストーブ。

    画像: 自然と火の回りに家族が集まり、やさしいコミュニケーションが生まれる

    自然と火の回りに家族が集まり、やさしいコミュニケーションが生まれる

    「火の暖かさはやわらかなのに、しっかり家全体が暖まります」

    薪は1年を通して準備。力のいる大きな薪の薪割りは主に夫の仕事ですが、焚きつけ用の小さな薪づくりは上原さんが担当。小ナタで端材を手際よく割っていきます。

    画像: アウトドアのセレクトショップ「ナイスタイム」のナタは夫がデザイン

    アウトドアのセレクトショップ「ナイスタイム」のナタは夫がデザイン

    画像: 家の縁側でもできる。最初に刃を入れたら、あとは軽く力を入れるだけ

    家の縁側でもできる。最初に刃を入れたら、あとは軽く力を入れるだけ

    04_冬の楽しみ
    ライ麦の種のアイピロー

    友人の作家・佐々木愛さんがつくる女性形の小豆カイロ。特別に小豆のかわりにライ麦の種を詰めてもらった。種に含まれる水分が、温めた際に水蒸気をつくり、体を温めるという仕組み。

    画像: <おっぱいさん>情報は作家のインスタグラム@aisasaki_handworksにて

    <おっぱいさん>情報は作家のインスタグラム@aisasaki_handworksにて

    「電子レンジで様子を見ながら1分20秒加熱して、首や目、おなかなど、疲れたり、冷えたりしているところに当てて温めます。チャーミングな女性で、名は〈おっぱいさん〉。うちの娘が名付け親です」

    05_冬の楽しみ
    テルミーで温め養生

    知人に教えてもらって以来、実践している温熱療法の「イトオテルミー」。

    画像: 「子どもも気持ちいいみたい。具合の悪いときは自分からせがんできます」

    「子どもも気持ちいいみたい。具合の悪いときは自分からせがんできます」

    「薬用植物などでできた線香状のものに火をつけ、その熱を体のあちこちに当てることで、自然治癒力に働きかけるといわれているんです。すごく温まって、冬のお手当てにもぴったりなんです」

    薬草の成分の力を借り、自分でケアできるのがうれしいと上原さん。

    「海外の旅にも持参して、よく使っています」



    <撮影/市原慶子 取材・文/鈴木麻子>

    上原かなえ(うえはら・かなえ)
    ペーパークラフトやヒンメリなど、身近な素材で作品をつくるクラフト作家。ヒンメリ用のライ麦は種から栽培。ライ麦ストローやヒンメリキットの販売をサイト https://ryestraw.base.shop/ で行う。東京・代田橋の「ワサビ・エリシ」でヒンメリのオンラインワークショップも。詳細はインスタグラム @kanaeuehara まで。

    ※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです



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