(『天然生活』2020年3月号掲載)
無心に手を動かして、アイデアの翼を広げる。天野さんの夜長仕事
冷えとりに役立つ手編みのソックス
冷えとりソックスの最後にはく、スパイラルソックスを手編み。表編みと裏編みだけのシンプルな模様を6段ずつ、ずらしながら編んでいきます。
「ずっと同じ色だと飽きてしまうので、赤とピンクなど2色を交互に編むことが多いんです」
かかと部分がない形状なので、簡単に編め、足にフィットします。ラムウールやアルパカ混のやわらかく温かな感触に、気持ちもいやされるひと時です。
はぎれを生かして、子どものものを
息子の松重君が着る普段着や、保育園で使うネーム入りの袋ものを手づくり。
市販のTシャツにも少し手を加えることで、思い出に残る1枚に。子どものものは小さいので、大人用の服をつくるときに出たはぎれを活用でき、裁断から始めても1時間半程度で完成。
写真右のパンツは凍える季節も元気いっぱいに過ごせるようにと、裏地にあたたかな綿起毛生地を使って仕上げます。
草木染めの布で、袋ものを手づくり
ピンクはびわの葉、ベージュはサルスベリ、イエローはセイタカアワダチソウ。あの植物がこの色に? という不思議さや驚きを秘めた草木染め。
「大鍋を用意して、皆でわいわいと染めることが多いです。草木染めの染料は和紙に入りやすいので、縦糸にシルク、横糸に和紙の繊維が入った糸で織られた布を使います。絞り染めにしたり、タンパク質に反応するので、豆乳で絵や模様を描くことも」
子どもの普段着や袋ものはあっという間に完成。夜なべ仕事にはぴったり
奈良発の老舗ブランド、中川政七商店の商品企画デザイナーなどを経て、2007年より、自身のブランドを立ち上げた天野千鶴さん。
2010年には奈良県の大和郡山に直営ショップ『ミルツル』をオープンし、現在は洋服とテキスタイルのデザインのほか、お仕立てのオーダーを受けたり、お裁縫教室で幅広い世代の女性たちに手づくりの楽しさを伝えています。
プライベートでは3歳の男の子、松重くんのお母さんでもあり、あわただしくも充実した毎日です。
そんな天野さんにとって、家族が寝静まったあと、夜9時から午前3時ごろはかけがえのない自分時間。お仕立て仕事の合間に、子どものものをつくって気分転換をしたり、作業が一段落したところで、深夜のティータイムを楽しむのも好きだそう。
子どもの普段着や袋ものには、大人用の服をつくるときに出るはぎれを活用。織りや染めにこだわったミルツルの生地は子どものデリケートな肌にもやさしく、あっという間に完成するので夜なべ仕事にはぴったりなのです。
さらに、生徒さんから「これをつくりたいんです」と相談を受けたことをきっかけにスパイラルソックスを編み始めたり、「ミルツル染め部」の仲間と染めた草木染めの布を活用してあずま袋をつくるなど、洋裁というカテゴリーにとらわれることなく、その時々で心ひかれた手仕事をする日もあるそう。
天野さんにとって、冬の夜長はひとりになって無心に手を動かし、アイデアの翼を広げる貴重な時間。静かで豊かな、新しい季節のために種をまくひと時でもあるのです。
〈撮影/辻本しんこ 取材・文/野崎 泉、鈴木理恵(TRYOUT)〉
天野千鶴(あまの・ちづる)
Milleturu(ミルツル)デザイナー。「着る人によりそう服」をテーマに、オーダーメイドショップとお裁縫教室を運営。
webサイト:https://mille-turu.com/
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです