(『天然生活』2023年3月号掲載)
伝えていきたいのは、ものと人をつなぐ楽しさ
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
「ここには本当にいろんな年代の方がいらっしゃいます。『お店に行くのが生活の楽しみなのよ』と話してくださるご年配の方がいれば、『昔、母に連れられてお店に来ていました』と話す女性が、小さなお子さんと一緒にいらっしゃることも。近所の学校に通う学生だった方が、新生活を機に立ち寄ってくれることも多いです。そういう話を耳にするたびに、いままで足を運んでくだったお客さまを大切にすると同時に、これからの人たちともしっかりと寄り添っていかなくてはと考えます」
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ブルーの布製の庇がお店の目印。「B」のマークの陶板は、石井さんがかつて働いていた器メーカーが開店のお祝いに贈ってくれたもので、移転前の浄水通のお店でも使っていた
そう話す石井風子さんが、当時静かな住宅地だった福岡・浄水通に、小さな雑貨店「B・B・B POTTERS(スリービーポッターズ)」をオープンさせたのは、いまから31年前のこと。
売れるものを売るお店ではなく、自分たちが伝えたいと思うものを置く。そんなスタンスで始まったお店を象徴するものは、「白い器」でした。
当時は鍋や電気ポットにまで花柄がプリントされるなど、柄物や華美であることが、豊かさのイメージにつながることが多かった時代です。けれど白い器はどんな料理も受け止め、幅広いシチュエーションに添う懐の深さがあります。
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ショップの入り口近く、窓辺コーナーに並ぶ白い器類は「B・B・B」の原点。多くのスタッフとともにその魅力を伝えつづけている。
「白い皿は、キャンバス」。お店では、そんな言葉で魅力を伝えていた時期がありました。絵を描くように自由に使い、自由に料理を盛ってほしいという石井さんのメッセージです。
売り場にはサイズ違いの器やグラスがずらりと並び、メーカーから届いた荷を、ふただけ切って積み上げるような置き方をすることもありました。「使い方は、ご自由にどうぞ」
シンプルで使い勝手のいい道具のセレクトと使い手の感性に委ねる提案は、「自分らしい暮らし」への誘いでもありました。
お店はその後、2005年に薬院への移転を挟み、福岡を代表する生活雑貨店として全国に知られるようになりました。
変わっていくことと、変わらず続けていくこと
多くのお客さまに愛されるということは、お店を続ける責任とも結びつきます。30周年を迎えるあたりから、石井さんも自分の仕事を少しずつスタッフに手わたしていくことを意識するようになりました。
同時に「変わっていくこと」「変わらないこと」の見極めも、重要に感じているそうです。
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「料理やお菓子では『昔ながらの味』とうたうお店が多いですが、実はいまの好みに合わせた味に、気づかぬよう少しずつ変化させていたりしますよね。そういう調整を、私たちも考えていかなければいけないと思っています」
「変わっていくこと」の筆頭は、オンライン販売やSNSの活用です。実店舗や商品のよさを新しいお客さまに知っていただくためには、それらの力を駆使していくことは必須。この分野に慣れた若いスタッフの力を大いに借りねばと感じているそう。
「変わらないこと」は、「ひとりひとりのお客さま、ひとつひとつの商品を、同じくらい大切に思うこと」。もともと流行りの品を扱うお店ではないため、「なぜこの商品を置くのか」「この商品の魅力は何か」をしっかりと理解し、必要に応じてそれをお客さまに伝えていくことが重要です。
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左に山と積まれた「キャンブロ」のフードコンテナは、アメリカの旅の途中、カフェやレストランの厨房で使っているのを見て、仕入れるようになったもの
そして「なぜあの商品はないの?」という質問が来たら、「扱わない理由」や「それに代わる品の提案」も伝えます。
つくり手と使い手の間をつなぐ仕事だからこそ、両者が幸せになる役割をしっかり果たす。その姿勢はお店が続く限り、変わらないと考えているのです。
<撮影/戸倉江里 取材・文/宮下亜紀 構成/鈴木理恵>
石井風子(いしい・ふうこ)
美術大学卒業後、愛知県瀬戸市の器メーカーに就職。同社で知り合った夫とともに福岡に移住しウィークスを設立、1991年福岡市に「B・B・B POTTERS」をオープン。暮らしを支えるシンプルで飽きのこないテーブルウエアやキッチンウエア、インテリア雑貨などを紹介しつづけている。https://www.bbbpotters.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです