(『人生が変わる台所道具 私を助ける小さな働きもの』より)
自分が使いこなせないスペックの道具は必要ない
台所に一歩足を踏み入れると、なんだか時代を遡ってしまったような、それでいてどこの国とも思えないような異国感もある。それは、なぜなんだろう?
よくよく見ると、調理道具は陶器か、ガラスか、木か、鉄のものばかり。
一般的なステンレスの鍋やフッ素樹脂加工のフライパンはひとつも見当たりません。
「道具に求めるものは、長く使えるかどうか。なるべく自然の素材でつくられたもの、そして、ひとつの素材でつくられたものに惹かれます。取っ手だけプラスチックといった鍋は、そこの部分が欠けたり溶けたりすると使えなくなるし、オーブンにも入れられない。汎用性があって、理にかなったデザインが好きですね」
素焼きの鍋でみそ汁をつくり、小さな土鍋でごはんを炊く。ガラスの鍋で豆や野菜をゆで、せいろで肉や野菜を蒸し、鉄のフライパンでパンケーキを焼く。
炒めたり揚げたりする調理はほとんどやらず、だからこそ、必要な道具も少なくて済みます。
按田さんの愛用道具
マグカップごと入れられる「深型のせいろ」
台所道具の紹介記事で、必ずと言ってもいいほど挙がってくるのが、せいろ。
丁寧な暮らしの代表的道具のようなイメージがありますが、按田さんにとっては、気楽な道具。
「多少時間を長くかけすぎても状態があまり変わらず、いい感じで蒸されているので、放っておけるんです。これよりも浅型のせいろが一般的ですが、私は中に容器を入れて蒸したいから、深い方がいいなって」
野菜を蒸すついでに、水に浸した豆を入れたり、鶏肉に酒を振って酒蒸しにしたり。
「脂がつくような食材を入れないので、洗わずに湿った布で拭く程度。それよりも、使い終わったら、完全に乾かして水分を飛ばすこと。お手入れのコツはその程度です」
按田さんの使い方
以前は中華鍋にのせて使っていたが、鍋底に穴が開いてしまったため、現在は浅型のガラスのキャセロール&蒸し板にのせて。
いくつもの食材を一度に入れて蒸すことが多い。今回は、鶏肉(酒蒸し)、水に浸したひよこ豆、里いも、れんこん、そして卵。
浅い鍋だと早く湯が沸くので経済的。しっかり蒸気が上がってから食材を入れ、ちょうどよく蒸しあがったものから取り出す。
最初に一段セットを購入後、もう一段を購入。木の板にくぎを打ったところに、引っ掛けてしっかり自然乾燥させる。
せいろについて
商品名:せいろ
メーカー名:照宝
サイズ:(本体)直径約24×高さ約9cm(蓋は高さ約5.7cm)
素材:白木
使用年数:約16年
使ううちに色が濃く、味わい深くなる。蒸し板とセットで使うと、どんなサイズの鍋にも合う。現在の商品はデザイン変更あり。
本記事は『人生が変わる台所道具 私を助ける小さな働きもの』(家の光協会)からの抜粋です
〈撮影/馬場わかな 取材・文/広谷綾子〉
按田優子(あんだ・ゆうこ)
東京生まれ。料理家、按田餃子店主。製菓製パンの会社に勤務し、工房長、カフェ店長などを経て独立。2014年4月、写真家の鈴木陽介氏と共同で、按田餃子を東京・代々木上原に開店。現在は代々木上原パワー店、三浦工房直売所の3店舗を経営する。JICAの仕事で、食品加工専門家としてペルーに何度か滞在するうちに、どこでも生きられる知恵を身につける。現在、神奈川県の三浦にも生活拠点をおく。
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「あなたの人生を変えた台所道具を教えてください」というテーマから、暮らし関係の仕事に携わる6人が厳選した愛用の台所道具を紹介。道具のお話を聞くうちに、道具の背景にある、料理や暮らしのことが見えてきました。「料理をもっと楽しむ」ために、6人6様のストーリーを読みながら、自分のライフスタイルに合うものを探してみてください。