(『天然生活』2024年4月号掲載)
曲げわっぱの弁当箱は、まるで、小さな「おひつ」
杉やヒノキの薄板を曲げてつくる曲げわっぱ。古くから日本各地でつくられていますが、秋田県大館市の曲げわっぱは唯一、国から指定を受けている伝統的工芸品。秋田杉の美しい柾目(まさめ)とやわらかい香りが特徴です。
「曲げわっぱはね、まず材をつくるのが大変なのよ」。そう話すのは、老舗メーカー「栗久」の栗盛俊二さんです。材料として使えるのは樹齢200年以上の秋田杉だけ。樹齢が若い木は木目が粗く、製材後に狂いが生じやすいうえ耐久性も低いといいます。
「秋田の厳しい寒さのなかで200年も300年もかけて年輪を刻むことで、引き締まった細かい目の良質な材になります。どの曲げわっぱにも節はひとつもないでしょう? これは折々に枝を落として育ててきた証拠。ご先祖さまたちが手をかけてつくった木があって、初めてつくることができるんです」
おいしいごはんは「おひつ」で完成する
吸湿性や断熱性に富み、抗菌作用もある杉は、他の木材よりも食べ物の器に適しているそう。曲げわっぱの代名詞であるおひつや弁当箱は、そうした杉の性質が十二分に生かされています。
「おひつも弁当箱も、ごはんの余分な水分が取れて杉のおいしい香りがつく。食べたらわかりますよ、釜から食べるごはんと全然違うから。あとは傷まないことね。おひつにごはんを入れておけば、夏で2日、冬場なら3日もちます。木の力ってね、すごいんですよ」
「栗久」では樺細工(山桜の樹皮を使った木製品)の職人だった栗盛さんの父の代から曲げわっぱづくりが始まりました。そして高校の木工科で木について徹底的に学んだ栗盛さんが20歳で後を継ぎ、50年以上、曲げわっぱひと筋です。おひつやお盆、弁当箱と並び、円錐型のお椀やサラダボウルなど革新的な商品を次々に生み出してきました。
「親父に最初にいわれたの。大館の曲げわっぱに足りないものを考えろって。それが私の原点だね。円錐型の曲げわっぱは、重ねて収納したいというお客さんの声がきっかけです。時代に即した新しいもの、求められるものをつくるのが職人の仕事。私はそう思います」
看板商品であるおひつや弁当箱も、使い手の声を反映し改良を重ねています。たとえば、底の隅に黒ずみができやすかったおひつは、隅を階段状にして丸く削ることで、乾きが速くなって黒ずみが軽減。弁当箱はニーズに合わせて多様なサイズと形を展開しています。たったひとつ変えないこだわりは、弁当箱の内側を塗装しないこと。
「塗装したら扱いやすくなるけど、木のよさは消えてしまう。曲げわっぱの弁当箱は、小さいおひつでもある。無塗装の白木でないと意味がないんです」
「栗久」の社員は自分たちがつくった曲げわっぱを愛用し、昼には休憩室でお弁当を広げます。以前はプラスチックの弁当箱を使っていたという阿部裕一さんが使い心地を教えてくれました。
「ごはんの味は完全に別ものです。前は冬場だとごはんがカチカチにくっついたけど、曲げわっぱのごはんはやわらかいまま。夏場も木が湿気を吸って、ふっくらしておいしいですよ」
栗久(くりきゅう)
秋田県大館市中町38番地
電話:0186-42-0514
https://www.kurikyu.jp/
※「 秋田・大館『栗久』の曲げわっぱ。お弁当箱ができるまで」は『天然生活』2024年4月号、P.44~49に掲載されています。
<撮影/山田耕司 取材・文/熊坂麻美>
栗盛俊二(くりもり・しゅんじ)
昭和23年大館市生まれ、伝統工芸士。世界初の円錐型の曲げわっぱなど、木に関する豊富な知識とアイデアをもとにした製品で数々のグッドデザイン賞を受賞。海外も含めて積極的に各地へ赴いて展示や実演を行い、現地の声を聞いて製品づくりに生かしている。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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