• 雑誌『リンネル』に掲載された、菊池亜希子さんの連載「へそまがり」。素直じゃないなと思わず自分でも呆れてしまう、「へそまがり」な菊池さんの思考がていねいに綴られています。それを一冊にまとめた『へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。』の刊行を記念し、菊池さんに思考を深めるコツについてお聞きしました。

    考えが消えないよう、トイレで付箋にメモ

    ——エッセイを読み、思考が深いというか、考えをていねいに掘り下げているなと感じました。思考は湧いてもすぐに消えてしまいがちですが、どのようにキャッチしていたのでしょうか?

    菊池さん:連載をやっているときは、考えを常にメモしていました。トイレに強力な「ポスト・イット」の付箋を置き、それにメモして、壁にバーっと貼っていました。私にとってトイレは考えるのにちょうどいい場所なんですよね。あとは携帯にメモる。メモしないと忘れてしまうんですよ。

    ——本当に、すぐ忘れちゃいます。

    菊池さん:自分の中で腑に落ちる瞬間すらメモしないと忘れてしまう。連載で文章にすることで、自分の中で忘れたくないものを残せたかなと思います。

    画像: 考えが消えないよう、トイレで付箋にメモ

    ——雑誌では毎月の連載でしたね。1カ月の間にいろいろな考えが出てくると思うんですが、その中から一番残しておきたいことを題材に選んでいたのですか?

    菊池さん:日記のような、いまこの瞬間思っていることを書く回もありますが、残しておきたいネタのストックがある中で、考えが一番熟しているものを題材にすることが多いですね。自分の中でぐるぐる、行ったり来たりしながら考えるのですが、そのなかから出口が見えそうな気がするものを選んで書いていました。

    ——1本の文字数が2,000〜3,000字。雑誌の連載としては、比較的多いですよね。

    菊池さん:けっこうありますよね。連載のときは、文字数に縛りがなく、自由に書かせていただきました。多分、私、言いたいことがいっぱいあるんです。しゃべりだすと本当に止まらないタイプで。おしゃべりが文章にもあふれちゃっている。

    連載を始めたころ、ちょうど下の子どもが産まれて、友達と会ってゆっくり話す時間がなかなか取れなかったんです。友達とスパッと会って、スパッと帰るみたいな。そのときに話しきれないこととかを、この連載で書いているところもあります。

    友達と会うと、こういうことがあってさー、こうでさー、みたいにぐるぐる話しても、その先まで行き着けないまま、なんとなく会話が終わるんですよね。楽しくふんわり終わらせたほうが、お互い心地よかったりするので、それはそれでいいんです。でも、もうちょっと奥まで話したい、深く考えたいという欲望もあって。それが文字数に出ていたのかなと思います。

    小学1年生で知った、ぐるぐる考えたことを文章で伝える楽しみ

    画像: 小学1年生で知った、ぐるぐる考えたことを文章で伝える楽しみ

    ——菊池さんは、ぐるぐる考えることで思考が深まっていくと。エッセイの「はじめに」でも、「幼い頃から、頭の中がぐるぐるしているタイプの子どもだった」と書いてありますね。

    菊池さん:そうなんですよ。多分、小学校1、2年生のときの担任だった、細野先生の影響が大きいと思います。細野先生は定年退職間近のおじいちゃん先生なのですが、書くことをすごく褒めてくれたんです。それがうれしくて、先生に伝えたくて、日記などを一生懸命書くようになりました。

    子どもって大体、今日こういうことがあった、楽しかったとか、出来事や感情を羅列するじゃないですか。でも私は、こういうことを、こいうふうに不思議に思う。なぜならば、みたいな書き方をしているんです。自分の考えを伝えることを果敢にトライしている。それに対して先生も真正面から感想を書いてくれて。

    自分の頭の中でぐるぐる考えたことを文章にまとめていくこと自体は、そのころから変わっていないなと思います。

    思春期のみずみずしい感性を思い出してくれたら

    ——菊池さんの幼いころや、中高生のときの思い出がちょこちょこ出てきて、共感するというか、なつかしい気持ちになりました。

    菊池さん:本当ですか、うれしいです! 書いているときは、いろいろと思い出して楽しいと同時に、恥ずかしさでいたたまれない気持ちになっていましたが(笑)。

    思春期のころの話って、一番心が動いていた時期だから、鮮明に覚えているんですよね。だから、思考を深めるときに自然と出てきちゃうんです。しかも美化されていて、自分の中では映画のワンシーンみたいに記憶されている。

    私が16歳で初めて失恋した、「ミルクティー」の話がまさにそうなんです。失恋が確定した直後に、雪が降る中、バス停でひとりバスを待ちながら、切ない気持ちでミルクティーを飲んだ情景が忘れられなくて。いまでも自販機でミルクティーを買うたびに思い出します。

    画像: 「ミルクティー」の挿絵。絵は小川雄太郎さんが担当。小川さんがエッセイを読んだ後に、小川さん自らイメージを膨らませて描いていた。「雪の感じや背中の丸見とか、本当にこんな感じでした!」

    「ミルクティー」の挿絵。絵は小川雄太郎さんが担当。小川さんがエッセイを読んだ後に、小川さん自らイメージを膨らませて描いていた。「雪の感じや背中の丸見とか、本当にこんな感じでした!」

    そういうのって、みなさんも持っていると思うんです。手に取ったり見たりするだけで「わー、思い出す。恥ずかしい」みたいな。そういう自分の物語を、読者のみなさんに思い出してもらえたらうれしいですね。

    〈撮影/千葉亜津子 ヘア/山下亜由美〉


    菊池亜希子(きくち・あきこ)

    1982年生まれ。岐阜県出身。モデル・俳優・エッセイストとして多方面で活躍中。二児の母。著書に『みちくさ』(小学館)、『またたび』(宝島社)、『好きよ、喫茶店』(マガジンハウス)などがある。毎週土曜日、インターエフエムのラジオ番組『スープのじかん。』のパーソナリティーを務める。インスタグラム@kikuchi akiko_official

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    『へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。』(菊池亜希子・著/宝島社)|amazon.co.jp

    『へそまがりな私の、ぐるぐるめぐる日常。』(菊池亜希子・著/宝島社)

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    日常を菊池亜希子流の視点でとらえた『リンネル』の連載が一冊にまとまって話題になった単行本『へそまがり』の第2弾が登場です。子育ての苦悩を綴った「おそろい」、夫との小競り合いエピソード「鍵」、オタクとしての想いが溢れる「roundabout」など、家族、暮らし、思い出、推しにまつわるエピソード42篇を収録。

    巻頭では菊池さんの等身大の姿をとらえたグラビアを掲載。『リンネル』愛読者、菊池亜希子ファン垂涎の一冊です。



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