(『天然生活』2022年8月号掲載)
輪のように、水のようにゆるやかな循環を意識
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
築90年の古民家で、人と地球が喜ぶ暮らしの店「わっか屋」を営む角麻衣子さん。ふだん使うものも、自然環境への負荷がなるべく少なく、よりよいサイクルを生み出すものが基本です。
そんな麻衣子さんの暮らしを象徴するのは、夫の俊弥(としや)さんがつくる漆のカップ。毎朝、この器でスムージーを飲むのが習慣だそう。
「縄文時代から、薬酒を醸すことなどに使われてきた漆の器には、昔の日本人がもっていた知恵が詰まっているのを感じます。修復しながら、暮らしに長く寄り添い、最後は土に還っていくんですね」
日々の食卓に並ぶのは、地元の友人・知人が丹精して育てる有機栽培の野菜やお米のほか、昔ながらの製法でつくられた乾物や調味料。「祝島ひじき」もそのひとつで、昔ながらのかまどと鉄釜で炊き、天日干しされたひじきは、水でもどすだけで驚くほどやわらか。
「海水温の上昇が原因なのか、収穫量が激減していると聞いています。ひじきを通して、豊かで美しい海を守ることを考えていけたら」
店名にも輪のように循環する、つながるという思いを込めたという麻衣子さん。ワッカ=アイヌ語で「水」の意味もあるそう。
ひとつひとつはささやかな選択が、水面に広がる波紋のように世界を変えていくのだと気づかされました。
修復しながら長く使える漆の器を日常に
漆のカップは、朴を使ったもの。ほかの木材に比べると漆の吸収率が高く、硬度が増して丈夫になるそう。
「夫の8年前の作品で、長年使っているうちにつやが出てきました」
地物のビタミン菜を中心に、レモン汁、自家製甘酒、コリアンダーシード、義母お手製の野草酵素、近隣でくむ湧水なども加えてスムージーに。
上に有機栽培の麻の実やカカオニブなど、栄養価が高く、食感が楽しめるものをトッピング。眠っていた体が少しずつ目覚め、1日が始まります。
自然の力だけで仕上げるひじきが教えてくれること
麻衣子さんの友人が、火と土、太陽と潮風の力を生かして製造する「祝島ひじき」。あえて機械化せずレンガのかまどと鉄釜で炊き上げ、木のふたをしてひと晩蒸らすことでおいしくなるのだとか。
「ひじき漁は毎年3月ごろですが、去年は例年の5分の1、今年はその半分に。海水温の上昇で本来冬にいない魚がとどまり、芽を食べてしまうのが一因かもしれないと聞きました。祝島は40年前から原発建設に反対してきた歴史をもつ島でもあり、世界のありようについて考えさせられます」
七十二候の暦で季節の小さな喜びを見つける
詩人の白井明大(あけひろ)さんが制作している「白井商店の歌こころカレンダー」を毎年愛用。
約5日ごとにめくり、二十四節気七十二候の季節の名と、それぞれの時季に呼応した白井さんの言葉をかみしめます。
「誕生日が小暑の7月16日なのですが、七十二候は『蓮始開(はすはじめてひらく)』で、昨年はそこに『てのひらで水をすくい星を洗う』という詩が添えられていて、なんてきれいな言葉なんだろうと感激しました。自然のゆったりとした大きな流れのなかに自分がいるということを日々、思い出させてくれます」
資源を有効活用し、障がいがある方々とともに生きる
山口の障がい者支援施設「トイロ」がつくる新聞箱。購入して暮らしに役立てることで、障がい者の社会参加をサポート。
「ほどよい高さがあり、お料理の下ごしらえのとき、細かな野菜くずが散らばりにくいので重宝します。鏡の前で、ブラシについた髪の毛などを入れる小さなごみ箱にも。つくり手の喜んでくださる笑顔がうれしくて、ずっと使い続けたいです」
新聞も近隣から寄付されたもので、人と人が支え合いながら地域で資源をリサイクルできる、やさしい循環を生み出しています。
<撮影/辻本しんこ 取材・文/野崎 泉>
角麻衣子(かく・まいこ)
2008年に山口・金古曽町でオーガニックショップ「わっか屋」をオープン、今年で14年目を迎えた。地元で採れる有機栽培のお米や野菜のほか、フェアトレードのもの、ふきんやかごといった暮らしの道具まで幅広く扱う。夫で木工作家の角俊弥さんがつくる器やカトラリーも。インスタグラム@waccamai
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです