さまざまな体調の変化や不調が起こるとされている「更年期」。食事や暮らしの養生で、ゆるやかにのりきる知恵を国際中医薬膳師で源保堂鍼灸院の瀬戸佳子先生に教わりました。今回は更年期の不調について学びます。
(『天然生活』2023年6月号掲載)
更年期の不調の要因は、「肝」と「腎」の働きの低下
五臓のうち更年期に深く関わる「肝」と「腎」。その働きを理解すると、不調の原因がわかります。
女性の体に大切な肝と腎の役割
「肝」の役割は主にふたつ。ひとつは「気(体を動かすエネルギー)」や「血(西洋医学における血液)」の流れをのびやかにして、全身に行き渡らせる「疏泄(そせつ)」と呼ばれる作用。
体のすみずみまで栄養やエネルギーを行き渡らせることで、安定した活動や精神状態を保つことができます。
ふたつ目は「血」の貯蔵です。全身に必要な量だけ「血」を送り届け、潤いを与えます。「肝」は「血」が満たされていれば、機能を存分に発揮できますが、貧血には要注意です。
「腎」の主な役割は、生きるのに必要な生命エネルギー「精」を蓄えておくこと。この「精」が、成長・発育や生殖、老化に関わってきます。生まれたときに親からもらった「腎精」を保持しつつ、食べ物から得た「精」で補塡しながら、生命活動を行います。
「腎精」は生まれたときに量が決まっていて増えることはなく、それを少しずつ使いながら生きていき、やがて腎精が尽きたときに、私たちの一生は終わりを迎えるのです。
肝の働き
「肝」は「血」を貯蔵する臓器で、全身をめぐって、栄養や酸素、老廃物などを運ぶほか、皮膚や髪の毛、目などに深く関わる。
また体全体に気血をめぐらせる「疏泄」という作用があり、各臓器がスムーズに働く調節機能を担うとともに、心や思考を安定させる。
腎の働き
生まれたときに両親からもらった生命エネルギーの源「腎精」を蓄え、ホルモンバランスを司る役割を果たしている。
成長・発育、生殖、老化に関わる臓器で、脳や骨、膀胱、足腰、耳などに深く関わる。水分代謝を行ったり、体を温めたりする働きも。
潤いが不足する「肝腎陰虚(かんじんいんきょ)」とは
さまざまな生命活動に関わる「肝」と「腎」。五臓のうち「肝」と「腎」は、陰陽のうち陰に関わるもので、「潤い」が大切になります。
東洋医学では、更年期のあらゆる不調は、この潤いが不足することで引き起こされると考えます。そんな「肝腎」の潤い不足のことを「肝腎陰虚」と呼びます。
急にのぼせたり、汗が止まらなくなったり、顔が赤くなったりする「ホットフラッシュ」は、潤いが足りず、ほてりを冷ますことができないことから起きる症状です。
そのほか、肌や髪の乾燥、血圧が上がる、イライラがコントロールできないといった症状も、体の内面に潤いが足りなくなっているのが原因なのです。
この潤い不足は残念ながら、口から水分を摂ったり、外側から美容液をぬったりして解消するものではありません。
つまり更年期は、この「肝」と「腎」の潤いをいかにキープするか、減るのは避けられなくても、急激ではなく、どれだけゆるやかにしていけるかが、不調対策になるのです。
肝腎陰虚の人に出やすい症状
肝陰虚により
⚫︎のぼせる、ほてる ⚫︎口が乾く、苦く感じる ⚫︎目が乾く、充血する ⚫︎髪の毛がパサパサする ⚫︎イライラする ⚫︎肩がこる ⚫︎頭痛
腎陰虚により
⚫︎もの忘れしやすい ⚫︎足腰がだるくなる ⚫︎骨がもろくなる ⚫︎疲れやすくなる ⚫︎耳なり ⚫︎めまい ⚫︎粘膜が乾燥する ⚫︎性欲が減退する
<監修/瀬戸佳子(源保堂鍼灸院) イラスト/カトウミナエ 取材・文/田中のり子>
瀬戸佳子(せと・よしこ)
国際中医薬膳師。東京・青山「源保堂鍼灸院」併設の薬戸金堂で、漢方相談を行いながら東洋医学に基づいた食養生のアドバイスを行う。著書に『お手軽気血ごはん』『季節の不調が必ずラク~になる本』『気血スープ』(すべて文化出版局)。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです