(『百実帖』より)
長い春
冬の終わりから春いっぱい、薺は長くたのしめる。その間、ずっと花と実りが同居していて、春がこのまま、いつまでも続いていくような錯覚さえ覚えてしまう。
始まりは七草。
陽だまりで、地に張りつくロゼット状の株を採って、生ける。
立春をすぎた頃には、茎は大きく立ち上がり、タネも目立ってくる。日の当たり具合で、草丈も実りにも大きな差が出る。球根の花と生けるなら日陰の小さめ、花木となら日向でよく伸びたのを選ぶ。
ひな祭りを迎える頃には、畑は薺の原っぱ、採り放題。すらっと長い茎に、ハート形のタネがたくさん並んだのを摘む。ときおり、タネとタネを合わせて、ペンペンと鳴らしてみたりする。
お彼岸をすぎたら、薺とその仲間を取り混ぜて、薺ミックスで生ける。春を摘む気分で、心浮き立つ。
桜が散り、緑覆う景色のなか、いつの間にやら薺が姿を消している。
春にもやっぱり、終わりはあるのだった。
薺〈ナズナ〉
冬~春|アブラナ科 越年草
別名:撫菜(ナズナ) ぺんぺん草(ペンペングサ)
ガラスの器に薺〈ナズナ〉を生ける
薺の仲間を四種。
細長いの、尖っているの、丸いの。
あらためて見つめてみると
形の違いが興味深い。
花材
薺(ナズナ)/ 犬薺(イヌナズナ)/豆軍配薺(マメグンバイナズナ)/種付花(タネツケバナ)
花器
硝子碗(瀬沼健太郎)
大皿に薺〈ナズナ〉を生ける
アスファルトの隙間で立ち枯れる一本を、初夏の花と。
色が抜け、白む様子もいい。
花材
薺(ナズナ)/猩々袴(ショウジョウバカマ)/姫射干(ヒメシャガ)/丁字草(チョウジソウ)
花器
鉄釉鉢(山田隆太郎)
※ 本記事は『百実帖』(エクスナレッジ)からの抜粋です
〈スタイリング・文/雨宮ゆか 撮影/雨宮英也〉
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雨宮ゆか(あめみや・ゆか)
花の教室「日々花」主宰。神奈川県生まれ。季節の草花を生活に取り込む「花の楽しみ方教室」を東京・大田区のアトリエを拠点として全国に発信。工芸作家とコラボした花器の提案をおこない、各地のギャラリーで企画展を催す。花にまつわる執筆やスタイリングなどを手がけ、メディア掲載も多数。 著書に『花ごよみ365日』(誠文堂新光社)、『百花帖』『百葉帖』(ともにエクスナレッジ)がある。
雨宮英也(あめみや・ひでや)
写真家。東京都生まれ。梅田正明氏に師事の後独立。食器、家具、住宅など生活にかかわるプロダクトを主に撮影。人の暮らしが伝わる建築写真に定評がある。 近刊に『小さな平屋。』『自然と暮らす家』(ともにエクスナレッジ)など。