(『百実帖』より)
黄金の穂
萬屋錦之介(よろずや・きんのすけ)主演「長崎犯科帳」は、型破りの長崎奉行が活躍し、悪を懲らしめる、という時代劇。商人の親玉が、賄賂に持ってきたカステイラの箱。ふたを開けると小判がずらり。
「オレ、カステイラは大好きなんだ」って。ええっ、受け取っちゃうの、錦之介。
遠く江戸時代には、大層な存在だった小判。それに似た形の穂をつける草がある。
立夏をすぎる頃に見かける、小判草だ。
刻みめのような筋が入った、やや丸みのある楕円形の穂を、いくつもぶら下げる。成熟すると黄金色になって、ますます本物に近くなる。
でも、似ているのは形だけ。残念なことに、草の小判はありがたがられることなど、ほとんどない。
ちょっとした土のスペースのあるところ、たとえば車道脇の植え込みなどでも、群れをなす。そんな気取らない性質は、雑草扱いもされている。
花生けにはたのしい草だけれど、カステイラの箱に詰めても、きっと誰も喜ばないだろう。
小判草〈コバンソウ〉
初夏|イネ科 一年草
別名:俵麦(タワラムギ)
スカリ*に小判草〈コバンソウ〉を生ける
*スカリ:釣り道具。釣った魚を入れて活かしておく網。
垂れ下がる穂の姿には掛花が似合う。
草で編んだかごならやわらかな花に。
花材
小判草(コバンソウ)/ クレマチス/夏椿(ナツツバキ)
花器
スカリ・埼玉秩父
※ 本記事は『百実帖』(エクスナレッジ)からの抜粋です
〈スタイリング・文/雨宮ゆか 撮影/雨宮英也〉
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雨宮ゆか(あめみや・ゆか)
花の教室「日々花」主宰。神奈川県生まれ。季節の草花を生活に取り込む「花の楽しみ方教室」を東京・大田区のアトリエを拠点として全国に発信。工芸作家とコラボした花器の提案をおこない、各地のギャラリーで企画展を催す。花にまつわる執筆やスタイリングなどを手がけ、メディア掲載も多数。 著書に『花ごよみ365日』(誠文堂新光社)、『百花帖』『百葉帖』(ともにエクスナレッジ)がある。
雨宮英也(あめみや・ひでや)
写真家。東京都生まれ。梅田正明氏に師事の後独立。食器、家具、住宅など生活にかかわるプロダクトを主に撮影。人の暮らしが伝わる建築写真に定評がある。 近刊に『小さな平屋。』『自然と暮らす家』(ともにエクスナレッジ)など。