(『天然生活』2022年8月号掲載)
できることから少しずつ。ものを循環してごみを減らす
鳥取県米子市、名峰大だい山せんの麓で、カフェ「食べれる森シュトレン」を営む丸瀬由香里さん。
以前は、神奈川県を拠点にお菓子づくりの仕事をしていましたが、自然栽培の米をつくる和憲さんとの結婚を機に移住。
悠然とそびえる大山や、美しい田畑を毎日目にしながら、夫が育てる米や野菜を材料に、お菓子をつくって販売しています。
「この地に来て、自然との関わりが深くなりました。そうしたらおのずと、ものを循環させて、なるべくごみを出さない暮らしがしたいと思うようになったんです」
たとえば、野菜は皮も根も捨てずに丸ごといただきます。草木染めの洋服は色あせたら染め直して、再び使用。家を改装するにあたっては、廃材をふんだんに用いました。
新たにものを買うときは、土に還る天然素材を選ぶ心がけも。もちろん初めから、すべて実践していたわけではありません。まず最初に見直したのは、食です。
「独身のころ体をこわし、食養生のマクロビオティックを学びました。そのベースとなるのが“一物全体(いちぶつぜんたい)”です。皮はむかず、あく抜きもせず丸ごと調理して、食材のエネルギーを摂り入れましょう、という考え方です。実際やると体調がいいし、生ごみも減って気持ちもいい。自然と定着しました」
和憲さんに出会ってからは、食以外のことにも目が向くように。
「彼は自然栽培のことを、単に農薬を使わない方法だと思っていなくて。生き方そのものだととらえ、暮らしに落とし込んでいたんです。その姿勢がとてもいいなと思い、私も洋服や資材などを捨てずに使いまわすようになりました」
周りにいる仲間から刺激を受けて、取り入れることも多々あります。いま試みているのは、プラスチックを減らすこと。
「無理せず、自分のペースで少しずつ取り入れています。ひとつやってみて、無意識でもできるようになったらもうひとつ試す感じです。あれこれ手をつけてがんばりすぎると、疲れて結局全部やらなくなってしまう性分なので(笑)。続かないことがあっても自分を責めるのではなく、いまはタイミングが合わなかっただけだと手放すようにもしています」
気負わず軽やかなスタンスで取り組むのが、続く秘訣のようです。
丸瀬由香里さんの「むだを出さずに、楽しむ暮らし」
服を染め直して長く使う
草木染めの洋服が好きな丸瀬さん。この日着用しているのは、色あせてしまい染め直してもらったタンクトップと巻きスカート、羽織りです。
「染め直しに出すと、クタクタだった生地に張りが出て、元の状態より丈夫になって返ってくる。見違えるほどの変貌ぶりに、毎回感動しています。もともとの値段より高くつくこともあるけれど、愛着もわくし、長く着られるのでうれしいです」
廃材を使った、伝統構法の家と店
「壁や床、収納棚など、梁以外はほぼ廃材で改装しました。土壁も解体時に出た土壁を再利用し、わが家のわらを加えて塗りました」
現在増設中の離れには「石場建て」を採用。石場建ては基礎にコンクリートを打たず、据えた石に直接柱を建てる、昔ながらの構法です。
家を地面に固定しないため地震の大きな揺れを逃し、建物の倒壊を防ぐ利点が。家を長く使うための先人の知恵にハッとさせられます。
米と野菜をつくり、丸ごといただく
米は夫が、野菜は夫とふたりで家庭菜園で育てています。
マクロビオティックの教えに倣い、野菜は皮もむかずあく抜きもせず、ときには種も取らずに調理。わずかに出る生ごみは土に埋めて還します。次々実る夏の旬野菜をいかにおいしく食べきるかは、腕の見せどころ。
「水の代わりになすを大量に入れたカレーや、つくりおきおかずを冷凍保存し、食材をむだにしないよう工夫しています」
<撮影/森本菜穂子>
丸瀬由香里(まるせ・ゆかり)
夫の和憲さんと一緒に「丸瀬家」として活動。田畑の管理や食品の販売を行う。自然栽培の田畑と発酵を生かした食を通じ、「土ある暮らし」を提案。2019年にカフェ「食べれる森シュトレン」(不定休)を開業。夏に森本菜穂子さんとの共著『発酵ある台所』(亜紀書房)を発売予定。https://maruseke.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです