(『天然生活』2023年6号掲載)
ハーブを育てながら使う、奄美大島の自然と暮らし
鹿児島本土と沖縄本島のほぼまんなか、豊かで多様な森と美しい海で知られる奄美大島。
ハーバリストの石丸沙織さんがこの地に移り住み、ハーブを育て始めたのはいまから12年前のこと。
英国や香港など海外に長く住み、ハーブを「育てながら、学ぶ」ということを続けてきた石丸さん。
初めて降り立った奄美は、いまよりもさらに店や観光客も少なく、のんびりとして素朴だったと振り返ります。
自分に必要な薬草は家のまわりに生えてくる
日本で「ハーブを育てる」というと、北海道や東北、長野など、比較的寒冷な地域を想像する方が多いかもしれません。
「日本に帰国するにあたり『霜が降りない場所』を条件に、住む場所を探しました。すると、奄美の北にある種子島までは、どうしても霜が降りてしまう。下見で初めて訪れたとき『この場所だ』と、直感的に決めてしまったんです」
霜が降りない奄美は、温帯の植物と熱帯の植物が出合う、ちょうど中間地点の場所でした。
イランイランやベチバー、しょうがといった南国原産の植物も、元気に育ちます。
熱帯特有の甘い香りのハーブは、昔から個人的に強くひかれてきたそうで、またミント、タイム、セージといったポピュラーなハーブ類は、秋から冬の間に収穫が可能です。
ハーブ療法の本場・英国でも、自国では自生しないエキゾチックな薬草やスパイスも多く使うそうですが、奄美なら幅広く自ら収穫することができます。
ハーバリストには「ハーブを育てるのは別の人、自分は処方するのみ」という人も多くいます。しかし石丸さんは自ら育て、育てるなかで日々感じることや観察、発見に、重きを置いてきました。
ハーブの生命力を目の当たりにすることは、効能を学ぶ座学だけでは得られない気づきがあるといいます。
「ヨーロッパでは古くから、『必要な薬草は、その人の家のまわりに生えてくる』という考えがあります。必要なものは身近にあって、手の届く範囲内で探す。
ハーブ畑で3年植え続けても育たない植物は『この地に暮らす私には、必要がないものなのかもしれないな』と考えるようになりました」
次回は、石丸さんに、奄美大島でのハーバリストとしての活動について、お話をうかがいました。どうぞお楽しみに!
〈撮影/砂原 文 構成・取材/田中のり子〉
石丸沙織(いしまる・さおり)
英国メディカルハーバリスト、アロマセラピスト。イギリスでハーブ医学を学んだのち、東京、香港を経て、2011年より鹿児島県奄美大島在住。地域に根差したハーバリストとして、身近なハーブを暮らしに取り入れたケアを広めている。菓子研究家・長田佳子さんとの共著に『ハーブレッスンブック』(アノニマ・スタジオ)、訳書に『フィンランド発 ヘンリエッタの実践ハーブ療法』(フレグランスジャーナル社)がある。
※ 記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです
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メディカルハーバリストの石丸沙織さんと菓子研究家・長田佳子さんは2018年より「herb lesson」を開催してきました。ハーブのテイスティングとそのシェアリングに時間をかけ、教科書的なハーブの知識だけではなく、それらが使う人の心身にどのように響くかを大切にしています。
ハーブティー、ブレンドの考え方、ハーブバス、チンキなどのレメディ、ハーブの風味を味わうお菓子を暮らしに取り入れてみましょう。自分の感覚を大事にする、こころとからだを癒すセルフケアの方法やアイデアをご紹介します。
ハーブとの出逢いを通して、新しい自分に出逢える一冊です。