猫と暮らすときに覚悟しなくてはいけないもの、それは壁の爪とぎ?
猫は壁や柱で爪を研ぐもの。そう思っていませんか?
実家で暮らしていたとき、ボロボロの部屋に、ずっとそう思い込んでいました。
だから、夫と同棲をはじめて、最初の猫「ビー」と暮らし始めたとき、賃貸に住んでいた私たちは、そのことでだいぶ悩みました。
ここもボロボロにされたらどうしよう。きっと、引っ越す頃には敷金なんて返ってこないだろう、と。
ところが、今の戸建ての持家に引っ越すとき、賃貸の部屋を何の問題もなくきれいなまま返すことができたのは、ただビーが「いい子」だったわけではなかったのだと、あとになっていろいろな猫のハウツーを読んで知りました。
私たちは、知らず知らず、猫が壁や柱で爪を研がない状態にしていたのです。
たとえば、市販のダンボール製の爪とぎ。
保護して間もないケージ暮らしの頃から、多少狭くても、必ずそこには、その爪とぎを入れていました。
不思議なもので本能なのか、保護した猫たちは、ちゃんと爪とぎを使ってくれました。
もちろん、ケージから解放しても、家中に爪とぎを沢山置きます。すると、「爪とぎ」=「爪を研ぐ場所」と覚えているようで、そこでしか爪を研がなくなっていたのです。
爪切りが好きになるよう育てる
また、爪切りも早いうちから慣らすようにしました。
我が家は、私と夫の二人暮らしなので、夫が抱っこしてあやしているうちに、私が、パチン、パチン、と切っていきます。
その間も、「えらいねー。きれいになったねー。あ、あともう一本だよ。すごいねー」と赤ちゃんをあやすように、なでなでしながら、一連の流れを終えます。かわいがるのは夫。私は切ることに集中し、少しでも早くすませます。
すると、爪きりが終わっても、猫は、「もっと遊んで?」と夫の膝から下りないほど。
このとき気をつけているのは、私たちが普段通りでいること。かまえてしまっては緊張が伝わるので、日常のスキンシップのように爪切りをしています。
それでも、中には野良生活が長く、抱っこをされることすらストレスになる子もいるので、そんな子は無理をせず、寝ている間に、こっそり、一本、また一本、と気づかれないように切ります。
一回の量は、片手が切れたらOK。気づいて「何?」と嫌そうにしたら、そのときは、それ以上、ねばりません。
そうすることで、信頼関係が築けるし、猫も嫌な記憶を受け付けられずにすみます。
どんな「しなければいけないこと」でもそうですが、それが「嫌なこと」「こわいこと」になってしまっては、猫たちはどんどんそれを避けるようになります。
ひいては、それをする私たちのことを嫌いになってしまうかもしれません。
嫌なことほど、「うれしいこととセット」に
不安障害で外に出ることがこわい私に、どうしても病院などで外出が必要なとき、夫が「コンビニに寄って、から揚げとノンアルコールビールでも飲みながら行こう?」とうまいこと誘うのです。こんなふうにあまやかして。
そうして、「爪とぎ」=「いちゃいちゃタイム」とすりこんでいって、しだいに誰もが爪とぎを好きに。
やがては、家の傷つけへの心配ゼロに結び付けていけるのです。
咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」