(『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』)より
市場からみんなを支える、栄養たっぷりの伝統茶
韓国の伝統茶は、茶葉や豆のお茶のほか、ゆず茶のように果物の砂糖漬けにお湯を注ぐものや、韓方材を使うものも。古くから伝わる暮らしの知恵と栄養がぎゅっと詰まった、飲んで体を癒すようなお茶たちです。
「ミンソク茶店」はそんな伝統茶の専門店。オープンから約38年、ずっと南大門市場で営業を続けてきました。
お店は食堂がずらりと並ぶ細い路地にあり、一歩入ると漢方を煎じたような香りがふわりとたち込めます。
「いらっしゃい!」と元気よく迎えてくれるのは店主のキム・ジェスクさん。約8年前に創業からともにしてきたお姑さんが引退し、2代目として店を継ぎました。
お客さんは周辺に勤める会社員が中心で、お昼時になると3階まである席がいっぱいに。20~30代の若い常連さんも多く「コーヒーよりもこれがいい」と毎日のように飲みに来るそうです。
じっくり煎じた漢方茶は体が芯からあたたまる
材料は京東市場から仕入れ、すべてお店で手作り。先代の教えを守り、大量の仕込みを全部お一人でされています。なかでも特に手がかかるのがお店の“顔”である十全大補湯(シッチョンデポタン)。
約10種の材料を煮出し、疲労回復や風邪に効くとされる韓方茶です。こちらで使うのは当帰、芍薬、桂皮、黄耆(おうぎ)、陳皮、葛根、甘草、百朮(びゃくじゅつ)など。
弱火でじっくり、前日から7~8時間かけて煎じます。本来は高麗人参も使うものですが、「体質に合わない人もいるから」と、代わりにしょうがをたっぷり。
煎じるときに香りが飛んでしまうため、当日の朝、ナツメの抽出液とともにもう一度加えてさらに3時間ほど煮出します。
カリカリのくるみやナツメがたっぷりでとろりと濃厚。ちびちび飲み終える頃には、体が芯から温まるのを感じます。
活気のある市場の中でここだけは時間の流れが違い、なんだかオアシスのよう。ゆっくりお茶を味わっていると、すごく静かな気持ちになれます。
本記事は『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』(KADOKAWA)からの抜粋です
〈取材・文/なかしましほ 撮影/衛藤キヨコ〉
なかしましほ
料理家、からだにやさしい素材で作るお菓子工房「foodmood(フードムード)」店主。書籍、雑誌でのレシピ提案、ワークショップ、イベントのほか、映画、ドラマなどのフードコーディネートも手がけている。映画や音楽などのカルチャーをきっかけに韓国に興味を持つ。韓国在住の友人も多く、たびたび訪れてはおいしい店を探し求めている。初のガイド本となる『なかしましほ ソウルのおいしいごはんとおやつ』(KADOKAWA)を発売。『天然生活』本誌では『食後景日記』を連載中。
X:@nakashimarecipe
インスタグラム:@nakashimashiho519
◇ ◇ ◇
辛さ控えめ、野菜はたっぷり。なかしましほさんが案内する韓国のおいしい店。「foodmood」店主で料理家のなかしましほさんが、韓国・ソウルで探し歩いたおいしい店を紹介する、著書・初のガイドブックです。
地元の人たちでにぎわう食堂、市場内の軽食店、心地よい空間のカフェなど、なかしまさんが通い続けてきた名店ばかり。やさしい味わいや、野菜たっぷりがうれしいメニューなど韓国料理の奥深さが伝わります。
ピンス(かき氷)やケーキ、焼き菓子、屋台おやつなど、甘いものもしっかり。買ってきた食材でつくる、おみやげレシピ8点もあります。