(『天然生活』2022年7月号掲載)
風土に合う民藝で暑さをやり過ごす
「日本で受け継がれてきた手仕事のものは、なんてことないように見せてていねいにつくってあります。最近は外国製の似たようなものが安く出まわっていますが、丈夫さも美しさもまったく違います」
そう語るのは、亡き夫とともに古都・鎌倉で長きにわたり日本の手仕事を紹介してきた、もやい工藝の久野麗子さんです。
木々の緑に囲まれたご自宅は、冬は石油ストーブを焚くものの、夏はエアコンがなく、扇風機だけなのだとか。
「夏は『暑い、暑い』といって過ごすんですよ(笑)。北側の窓を開けると冷たい風が入ってくるので、それでしのいでいますね」
暑さをやわらげるためにひと役買っているのが、涼やかなかごや、やちむん(沖縄の陶器)での食事、ぬらした手ぬぐいなど、民藝(民衆的工藝)品の数々です。
「日本の風土に合っているので、色や柄、素材を替えて1年中快適に使っています。夏は白っぽい色や明るい柄、ガラスの出番が多くなりますね」
用の美に徹し、つくりつづけられてきたものは、時代もインテリアのテイストも問わず、暮らしに自然となじんでくれるといいます。
「よく使うアイテムをひとつ手に入れて、使ってみてください。不思議と温かみを感じ、そのよさに気がつくと思います」
麻ののれん
台所と居間の間にかけた麻ののれんは、新潟県長岡市で活動する織り手・佐藤多香子さん作。
「冬は木戸を閉めていますが、夏はのれんをかけています。これは店で使っていたものですが、洗濯してここで干したら思いのほか似合ったので」
麻のしゃりしゃりした手触りと藍染めの雨垂れ絣模様が、蒸し暑い日に涼を運んでくれます。
竹の腰かご
竹製の腰かごに花びんを入れ、剪定した庭のもみじの枝とひまわりを活けて。
「もみじは秋のイメージですが、若葉もきれいですよね。私はかごが大好きで、家中かごだらけなんです。大きなかごが多いですが、この大分県日田市のかごは花入れにちょうどいいサイズです」
本来は魚捕りで使うびくか、きのこ狩り用ではとのこと。
琉球ガラスのピッチャー
「外村吉之介(とのむらきちのすけ)さんが著した『少年民藝館』という本で紹介されていた、イタリアのレモネード用のピッチャーを夫が見て面白がり、沖縄の奥原硝子製造所にお願いしてつくってもらいました」
再生ガラスならではの色も魅力のペリカンピッチャーという商品で、夏の愛用品。ペリカンのくちばしのような注ぎ口が、氷を受け止めます。
倉敷緞通(だんつう)の玄関マット
イ草に和紙を巻いた糸と、レーヨンの糸で織った倉敷緞通。
「現在では瀧山雄一さんしかつくり手がいない倉敷緞通は、民藝の人たちが大切にした仕事のひとつ。冬も柄を替えて使っていますが、これはストライプの明るい色合いが夏向きだと思います」
表側はタオルのようなパイル地で、素足で踏んだときにも柔らかい肌あたり。
型染の手ぬぐい
染色家・山内武志さんと小田中耕一さんの手ぬぐいは、来客時のおしぼり代わりに。蒸し蒸しした日に、さっぱりした手触りが心地いい。乾きやすいため、雑菌が繁殖しにくいというよさも。
「おふたりとも、染色家で人間国宝の故・芹沢銈介(せりざわけいすけ)さんのお弟子さんです。唐草などの伝統的な模様のほか、創作的な柄も素敵です」
<撮影/小禄慎一郎 取材・文/長谷川未緒>
久野麗子(くの・れいこ)
若い頃、東京都目黒区駒場の「日本民藝館」に務めたことがきっかけで、民藝の世界を知る。のちに「もやい工藝」店主の久野恵一さんと結婚。神奈川県鎌倉で、日本各地でつくられている陶磁器や吹きガラス、かごやざる、染織品などの秀れた手仕事の品々を紹介、販売している。https://moyaikogei.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです