猫が不安なときにしてしまうこと
「自傷」
そういうと人間の生きづらい人がしてしまうことのように思いがちですが、実は猫にもそれがあると、これまでの猫との暮らしで知りました。
猫は自由気ままに見えても、とても繊細。
環境の変化や、新しい家族が増えるだけでも、ひそかにメンタルに負担がかかっています。
何より猫にとって大切なこと。
それは、飼い主さんが自分を愛してくれているかという不安。
そっけないふりをしながら、いつも、猫たちは私たちの愛を求めているのです。
我が家にも、そんな「愛」を求めて、自傷をしてしまう子がいました。
うちの場合、幸いにも自分を噛んだり傷つけたりそういうことはありませんでしたが、とにかく自分を毛づくろいしすぎるのです。
毛づくろいには自分をリラックスさせる効果があるのだとか。だからでしょうか。うちの子は私たちが忙しいとき、一生懸命、自分を舐め、舐めているうちに、そこにハゲができてしまいました。
毛は抜け、皮膚が赤くなってしまっているような、痛々しいハゲ。
舐めるたびに「だめだよ」と止めるのですが、ふと目を離すと、また必要以上に舐めてしまっているのです。
心配して病院にも行きました。
ノミやダニ、皮膚病の可能性も気になったからです。
だけど、どこも異常なし。
結局、獣医さんには「ストレスかもしれませんね」と言われました。
ストレスを抱える猫のために、してあげたこと
何がストレスになっているのか。
最初、私たちには分かりませんでした。最近は新しい猫も増えていない。部屋もきれいにしている。爪とぎなどもちゃんとあるし、もちろん、ごはんやおやつも欠かさずあげています。
私たちがしたこと。
それは、その子が舐めてしまう場所を、代わりになでてあげるというものでした。
なでられると、舐めるのをやめます。なでる時間は、1時間。ひたすら、その子を撫で続けるのです。
すると、あるとき、ふっと「もういい」と自分からベッドに入って眠りました。
それからも、舐めそうになると、私たちがなでなで。
しだいに、その子は自分で自分を舐めることをやめました。そして、抜けていた毛も生えそろい、その後は同じようなことをすることは全くなくなったのです。
けなげな猫の「自傷」に見せかけた「自分癒し」
「自分を見てほしい」
「あなたたちが撫でてくれないなら、自分で自分を癒すしかない」
けなげな猫の「自傷」のように見せかけた「自分癒し」は、こうして人間の愛によっておさまったのです。
猫は犬ほど感情を表に出しません。それこそ、人間の思春期の難しい子どものように。
だからこそ、親である私たちは先手を打って、いつも、いつまでも、愛し抜いてあげなければと感じた瞬間でした。
咲セリ(さき・せり)
1979年生まれ。大阪在住。家族療法カウンセラー。生きづらさを抱えながら生き、自傷、自殺未遂、依存症、摂食障害、心の病と闘っていたところを、不治の病を抱える猫と出会い、「命は生きているだけで愛おしい」というメッセージを受け取る。以来、NHK福祉番組に出演したり、全国で講演活動をしたり、新聞やNHK福祉サイトでコラムを連載したり、生きづらさと猫のノンフィクションを出版する。主な著書に、『死にたいままで生きています』(ポプラ社)、『それでも人を信じた猫 黒猫みつきの180日」(KADOKAWA)、精神科医・岡田尊司との共著『絆の病──境界性パーソナリティ障害の克服』(ポプラ社)、『「死にたい」の根っこには自己否定感がありました──妻と夫、この世界を生きてゆく』(ミネルヴァ書房、解説・林直樹)、『息を吸うたび、希望を吐くように──猫がつないだ命の物語』(青土社)など多数ある。
ブログ「ちいさなチカラ」