いよいよ移住先探しへ
いつか移住する。そう思ったのは、店を構えたばかりの10年前のことでした。
いずれびん詰めの仕事がメインになるだろう。販路ができたらこの仕事はどこでもできるはずだから、自然の多いところで暮らしたい。
コロナの間に飲食店を手放してからは、次のターンに備えて、びん詰めの仕事は自分が現場から手を離しても回るように整えていました。
それからです、気になった場所に積極的に行くようになったのは。
全国のお店に商品を扱ってもらってきて、気になる土地はいくつかありました。
最初に物件を見にいったのは鎌倉。予算はさておき、イメージ通りの物件だったのだけど、その夏いちばん涼しい日に行ったのに、崖を背にしたその建物のなかに入ったらあまりの湿気に汗が止まらなくなって断念。
山梨や長野は今の職場まで中央線で1本、通おうと思えば通えて、友人もたくさんいる、現実的かつ理想的な選択肢。そう思って幾度か通ったのだけど、どうにもぴんとこなくて、決め手に欠けたのでした。
そうこうしている間に、今住んでいる築50年の団地が2年後に建て替えになることに。もともと、建て替えになったら移住のタイミング、と決めて買った物件でした。
〆切が決まった! そんな2022年は、ひとりで、友人と、ほんとうによく旅をしました。
音楽家の太田美帆さんとはその頃、いろんなところに行きました。一緒にいると奇跡のようなことがいつも起こって楽しかった。
みんげいおくむらの奥村さんも頼りにさせてもらっている旅友です。旅のはじめに、ある陶芸家さんのアトリエにお邪魔したら、隣の家に東京から移住した友人が住んでいたこともありました。
ばったりは、宇宙からのGOサイン
そうやってあちこちに行くようになって、わかってきたことがあります。
“天気がいい”は、場所との相性◎。着いたとたんばぁぁっと晴れるようなときは、土地に歓迎されている。
思いがけない場所で、思いがけない人に“ばったり会う”はそのまま進めのGOサイン。
そうやって、流れを見ながらいい予感のするほうに歩いていくと、思いがけないことが起こったりする。
うまくいくときは何もしなくても勝手に進んでいくし、うまくいかないときはやり方が間違っているか、今じゃない。
強引に進めず慎重にしていると、そのうちにいいルートが浮上したり。
人生は、ゲームのようなものかもしれません。これまでの日常でも使ってきた感覚だけど、場所探しをするなかで、ずいぶん磨かれたような気がしています。
ないなら自分で作ってみる
ところで、実家のある北海道には、常設で商品を置いてくれるちょうどいい販売店がなくて、長いこと懸念事項だったのでした。
ある日、ふと思ったのです。ないなら自分で作る?って。
そう浮かんだら、突然北海道でやりたいことがたくさん湧き上がってきました。
食べものはもちろん作りたいし、ギャラリーをやってみたい。北海道に紹介したい作り手の人はたくさんいる! なら、場所は空港の近く!!
地元を出てから、26年目を迎えようとしていました。故郷とはちょうどいい距離をとりたかったし、冬は厳しいしで、わたしのなかになかった選択肢だったのだけど。
急にチャネルが開かれた。やっぱり、うまくいくときはどどーっと進む、のでした。
藤原 奈緒(ふじわら・なお)
料理家、エッセイスト。“料理は自分の手で自分を幸せにできるツール”という考えのもと、商品開発やディレクション、レシピ提案、教室などを手がける。「あたらしい日常料理 ふじわら」主宰。考案したびん詰め調味料が話題となり、さまざまな媒体で紹介される。共著に「機嫌よくいられる台所」(家の光協会)がある。
インスタグラム:@nichijyoryori_fujiwara
webサイト:https://nichijyoryori.com/
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