「理由なくいつもビクビクしてしまいます。些細なことでも心配になり、落ち着きません」
漠然と将来のことが不安になって眠れなくなったり、起こってもいない天災や不慮の事故を心配しだしたり、何か特別な出来事が身近にあったわけでもないのに、日頃から警戒心が強く、ビクビクしながら過ごしているように思います。
どっしりと落ち着いていたいのですが、どうしたらよいでしょうか?
「胆(たん)」が弱っていると、必要以上にビクビクします
これはまさに「胆寒(たんかん)」という、六腑の「胆」が弱っている可能性が高いです。「胆」という六腑は、中医学では決断を司る場所とされていて、ダメージを受けるとビクビクして、恐れが生じやすくなると考えます。
気分の落ち込みが激しい、不安感が強い、必要以上に怖がる、決断に迷う、などの精神状態は、まず「胆寒」を疑ってみてください。
さて、六腑というのは、食べものを食べ、消化・吸収し、不要なものは体外へ排出するという一連の流れにおいて、食べものの通る“管”です。いわば食べものの通り道で、西洋医学で言うところの、消化管。
つまり、「胆」という六腑の一つが弱っているということは、何かを食べても、消化・吸収するための一連の流れがスムーズにいかないうえ、食べものの消化・吸収の働きを担う「脾」へ負担をかけてしまいます。
すると、せっかく良質な食事を摂っても、体内に吸収されない。人が活動するために必要な「気」や精神を安定させる作用のある「血」もつくれなくなります。
五臓と六腑は、それぞれ密接に関連し合っていますが、「胆」の場合は五臓の「肝(かん)」と表裏一体の関係にあります。
「肝」がいじめられれば、「胆」の機能も低下しますし、その逆も然り。互いに連携を図りながら機能しているため、「胆」が弱っていれば、自ずと「肝」の働きも鈍くなります。
逆に言えば、「肝」が弱っているために「胆」がダメージを受け、今回のように不安感が強くなってしまっている可能性もあります。
「胆寒」には、まずおかゆ
なぜ「胆寒」になってしまったのかは、詳しく聞いてみないことにはわかりませんが、「胆寒」の症状が見られる場合は、まず“正しい食事”をするというのが一番の養生です。
“正しい食事”とはすなわち、あっさりとした、温かい食事を、少なく食べる、こと。とくに、消化に関わる臓器や器官がダメージを受けているので、まずは食事をおかゆにして、それらの機能を十分に回復させることが手っ取り早いでしょう。
養生食としてのおかゆは、本来であれば2時間ほど弱火でじっくり煮て、米の粒が完全にはじけた状態のものを指します。
そのぐらい煮崩れている状態だと、噛む力も弱くなるぐらい体が弱っていて、咀嚼できずに飲み込んでしまったとしても、体は無理なく吸収できるからです。
ただ、普段の家庭生活でとなると、2時間を捻出するのはなかなか難しいと思いますから、その場合は40分を目安にしてください。
薄味を心がければ、梅干しを入れたり、出汁で炊いたり、中華がゆのような風味にしたり、好きな味に調味してもらって構いません。
ひどく弱っている場合は、具材は入れない方がよいですが、そこまででなければ、白菜やチンゲン菜などの野菜を加えてもよいですし、さらに元気になっていたら、鶏肉などのお肉を加えるのもよし。ちなみに、おかゆは米から炊くほうがおすすめです。
雑炊はおかゆではありません
一つ注意しておきたいのは、おかゆと、雑炊やおじや、お茶漬けは別物ということ。これらは単純に水分が増えた米で、米粒のままサラサラと飲み込むように食べることができますよね?
噛み砕かれていない米を消化・吸収する体の負担は、相当なもの。むしろよく噛んで食べる白米よりも、臓器が消化・吸収するのに時間も負担もかかり、せっかく食べても体に吸収されない可能性すらあります。
本記事は『こころゆるませ漢方養生』(扶桑社)からの抜粋です
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櫻井大典(さくらい だいすけ)
漢方コンサルタント、国際中医相談員、日本中医薬研究会会員。漢方薬局の家に生まれ、幼少の頃から漢方薬に慣れ親しみながら、北海道の自然の中で育つ。カリフォルニア州立大学へ進学し、心理学や代替医療を学ぶ。帰国後、イスクラ中医薬研修塾で中医学を学び、中国・首都医科大学附属北京中医医院、雲南省中医医院での研修を経て、国際中医専門員A級資格を取得。現在は、電話およびSkypeで漢方相談にのっているほか、講演や書籍、雑誌、またX(旧Twitter)やnoteを通じ、現代に合った実践しやすい養生法を幅広く発信。Xのフォロワー数は18万人を超え、より多くの人々に中医学の知恵をやさしく、わかりやすく伝え続けている。
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