(『天然生活』 2023年10月号掲載)
みんなが喜んでくれたら私もうれしい
「幸せ」は人によっていろいろなかたちがあります。愛に満ちた日々を送ること、「こうありたい」と描いた像に近くあること。多くの主体は「自分」ですが、尾見紀佐子さんの幸せの主人公は「みんな」。
「だれかを笑顔にすることが、私にとっての喜びなんです」
尾見さんは、東京・渋谷区にある3施設を運営しています。
親子支援センター「かぞくのアトリエ」、小中高生、大学生の子どもたちが集い、興味あることに挑戦できる「代官山ティーンズ・クリエイティブ」、そして赤ちゃんからお年寄りまで幅広い世代が集まり交流できる施設「景丘(かげおか)の家」です。
場所を整え、集う人たちが生き生きと過ごせるようプログラムを考え、施設を動かしています。いわば、地域のお母さん的存在。「みんなの幸せ」のために活動するようになったのは、約10年前のこと。
「20歳で結婚して、3人を出産。最初の10年間は、夢中で子育てをしながら専業主婦として家族のためだけに生活していたように思います。かわいい子どもたちとの暮らしはとても幸せでした。でも社会経験のなかった私は、社会に出たいという思いも強くなったのです」
そんなころ「mother dictionary」(マザーディクショナリー)」というフリーペーパーの立ち上げに参加。新しい時代の自由で魅力的な生き方をしているお母さんクリエーターたちとの仕事から、たくさんの刺激を受けました。
家庭と仕事の両立は大変だったけれど、睡眠時間を削ってでも、仕事ができることがうれしかった、と振り返ります。
その後、自身の会社を立ち上げることとなりました。そして、これまでの経験をすべて生かせる子育てコミュニティ施設の運営を担う機会がめぐってきて、転機となりました。
自分の幸せ
感謝の気持ちを込めて神棚のお水を替える
「引っ越して、いまは仮のしつらい」というリビングの神棚コーナー。
朝食前に水を替え、心の中でお祈りするのが日課。
「まずは感謝を伝え、気にかかることがある日は、『いい時間が過ごせますように』と唱えます」
朝のあわただしい時間に手を合わせ、このひと呼吸をおくことで、落ち着いた気持ちで一日に臨めるのです。
自分の幸せ
魅力的な生き方をしている人に会いに行く
アーティストのマネジメントや、合同展示会を企画している尾見さん。彼らと積極的に触れ合い、豊かな感性に刺激や元気をもらっているといいます。
「それがすぐにかたちにならなくても、いつかふとした瞬間に助けてくれる気が」
そんな敬愛する作家たちの作品を部屋に飾ることで、暮らしは彩られ、潤っているのだといいます。
みんなの幸せ
気軽に集える居場所をつくる
渋谷区が運営する施設「景丘の家」。
近所の小学生や赤ちゃん連れのお母さん、お年寄りがやってきて、思い思いに過ごすことができ、さまざまなプログラムを開催して楽しく集えるようになっている。
「自分の子育てで蓄積してきた『こういう場があったらいいな』をかたちにし、人と人が立体的に触れ合える場所です」
<撮影/山川修一・山田耕司 構成・文/鈴木麻子>
尾見紀佐子(おみ・きさこ)
「マザーディクショナリー」代表。東京・渋谷区にある「景丘の家」など3つの施設を運営。そのほか、坂井より子さんやアーティスト・こばやしゆふさんのマネジメントをする。毎秋開催されるクリエーターの合同展示会&マーケット「TRACING THE ROOTS(トレーシング ザ ルーツ)」のプロデュースも。https://motherdictionary.com/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです