• エッセイストで空間デザイン・ディレクターの広瀬裕子さん。60歳を前に、歳を重ねるなかで出てくるさまざまな課題や考えなくてはいけないこと。たとえば住まいのこと、仕事のこと、⾝体のこと。ひとつひとつにしっかり向き合い、「心地いい」と感じる方へ舵を取る広瀬さんの毎日。そこから、60歳までにこうなりたい、という目標と取り組みを同世代や下の世代の方とシェアしていけたらと思っています。重い料理道具を軽くコンパクトにしていくことについて。

    家具と同様、家電、料理道具も軽いものにシフト

    日々の食事は、さっと作れるものがほとんどです。時間をかけて作る時もありますが、多くの場合、その時にいただきたいものを、食べ切れる量、時間をかけず作っています。

    料理をする時、いつからか軽い調理器具・道具を選ぶようになりました。「今日は、煮込み料理を」という時は、重いナベを「えいっ」と取りだし使うこともありますが、年々その頻度は、少なくなっています。また、取りだす際は、こころの中で「気をつけて」と自分に声をかけるようになりました。うっかり落としてケガをしたり、何かを割ったりしないようにするためです。

    齢を重ねていくなかで、重いものや大きなものは、いつしか軽くコンパクトなものに代わっていきます。家具、電化製品。調理器具・道具に関してもそれは例外ではありません。

    以前は毎日のように難なく使っていた物も、年々、軽くコンパクトなものを検討しはじめます。年齢だけでなく、家族形態や食生活そのものが変化していく年代にとり、使う物が変わっていくのは、自然なことだと感じています。

    画像: ジャガイモと手羽先のスープは、ナベのままテーブルへ

    ジャガイモと手羽先のスープは、ナベのままテーブルへ

    画像: トウモロコシが1本そのまま入るナベは、トウモロコシごはんを作るときに最適

    トウモロコシが1本そのまま入るナベは、トウモロコシごはんを作るときに最適

    鍋は特別。かつての料理やそれを囲む人が浮かぶ

    でも、どうしてか、ナベに関しては、抗する気持ちが少しあるのです。家具や家電に比べサイズがちいさいというのもありますが、思いがまた別のところにあるのかもしれません。より自分に近い物として存在しているというのでしょうか。

    手にすると、かつて作っていた料理がうかんできます。それと共に、その時いっしょにいた人、交わされた言葉、旬の食材、その季節の移りゆく様、そんなことまで思い出します。

    画像: キッチンにあると料理する気になるストウブ。大きなサイズはおでんなどをたっぷり作るときに。ちいさなサイズはひとり分の炊飯やおかゆにちょうどいい

    キッチンにあると料理する気になるストウブ。大きなサイズはおでんなどをたっぷり作るときに。ちいさなサイズはひとり分の炊飯やおかゆにちょうどいい

    ひとりでできなくなっていくことが増えてくなかで「無理をしない」は、大切です。「重い」ということも、人によっては負担になる場合があります。その時、たのしさや思いが上回るのなら、それはまだ負担ではないのでしょう。

    そうは言っても様々なことを見直す機会は、そう遠くない時期に訪れます。「重い」「危ない」「ほとんど使わない」という場合は、1度、持ちつづけるか検討してみてもいいと思います。

    答えがでない時は、箇条書きにしてみるとわかりやすいですよ。いいところ、すきなところ、不便なところなどを書き出すと、どうすればいいか答えがわかる時があります。

    調理道具や器具は、日々の食事を手伝ってくれるものです。器具・道具、家電、食器。それらを俯瞰で見つめ、今の自分、これからの自分の暮らしに「負担なく」「たのしい」「大切」を中心に見直してみる。60歳前は、10年後にはできないことも、かろやかにできる年齢です。変化に合わせ様々なことを検討し、再構築していくのは、キッチン内でも同じです。

    画像: 発売当初に比べ軽量化された「バーミキュラオーブンポット2」。ホーローとしては軽く使いやすい。再ホーローコーティングも可能のため長く使いつづけられる。フタはスタンディング可

    発売当初に比べ軽量化された「バーミキュラオーブンポット2」。ホーローとしては軽く使いやすい。再ホーローコーティングも可能のため長く使いつづけられる。フタはスタンディング可

    60歳までのメモ

    1 キッチンで使わないもの、使う回数が減っているものを考えてみる

    2 「危ない」となんとなく感じているものを挙げてみる

    3 置き場所としてスペースを取りすぎていないか見る

    4 これからも使う、使わない、とりあえず置いておく、か決める

    5 使ってくれる方がいたらきれいにして渡す


    画像: 鍋は特別。かつての料理やそれを囲む人が浮かぶ

    広瀬裕子(ひろせ・ゆうこ)

    エッセイスト、設計事務所岡昇平共同代表、other: 代表、空間デザイン・ディレクター。東京、葉山、鎌倉、香川を経て、2023年から再び東京在住。現在は設計事務所の共同代表としてホテルや店舗、レストランなどの空間設計のディレクションにも携わる。近著に『50歳からはじまる、新しい暮らし』『55歳、大人のまんなか』(PHP研究所)他多数。インスタグラム:@yukohirose19

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