地図を埋めるように日本各地のかごを集めて
ひとつ、またひとつ。民芸の魅力に引き込まれ、平野美穂さんはどんどんとかごを増やしてきました。きっかけになったのが、「民芸運動の父」柳宗悦が記した『手仕事の日本』です。
「巻末に日本地図があり、工芸品の分布図が載っていました。工芸品が、それぞれの土地の風土や歴史と密接につながっていることがわかり、衝撃を受けたんです。かごも地域によって素材や編み方が変わります。そのときに、日本地図を埋めるように、全国のかごを集めてみたいと思いました。出会った瞬間に永く使えるものかどうかわかるよう、多くのかごを見て、目を養うようにもしてきました」
十数年も前からコツコツと集めるなかで思うのは、かごとの出会いは一期一会ということ。
「手間のかかるかごは量産できないですし、地域によっては作家さんの高齢化などの問題もあります」
希少な手仕事品ゆえ、「また今度」会える保証はないと実感しているそう。
迎え入れたかごは家のあちこちに置き、暮らしの道具を入れてどんどん活用。家族によって使い込まれたかごには、柳宗悦が説いた「健全な美」が宿っています。
「yaora」店主 平野美穂さんのかご使い
キッチン
民芸の器が並ぶ台所にあめ色の竹がよくなじむ
左の行李は岩手・一戸町の職人たちが編んだ篠竹文庫。真ん中の浅いかごは宮城・大和町の篠樺細工。
「桜皮に篠竹を編み込んだもので、日常生活の道具にも凝った細工を施すという日本人の豊かな心や美意識を感じられる点が気に入っています」
右の水切りかごは長野・戸隠の茶碗かご。
食卓
細かい目としなやかな曲線が夏の食卓を涼しげに
ざるは山梨・河口湖のスズ竹細工。富士山二合目付近に自生しているスズ竹を使っている。
「ふだんから庭の野菜を収穫したり、ハーブを乾燥させたりしています」
おしぼりを入れたざるは青森・根曲竹。ざるはガラスの器とも相性がよく、夏の涼しげな食卓を演出するのにひと役買ってくれる。
キッチン
杉材の家具にしっくりなじむ古参のかご
長年愛用のかごは、大工さんにつくってもらった杉材の棚の引き出し代わりに。
上のかごは、普段はキッチンクロスなどを入れているが、梅干しやわかめなど自然のものを干すときにも活躍。
下のふた付きかごは、保存袋やみつろうラップなど台所で使う雑貨を入れている。
<撮影/小禄慎一郎 取材・文/鈴木麻子>
平野美穂(ひらの・みほ)
神奈川・鎌倉在住。器を中心に、日本全国の手仕事による民芸品を扱うオンラインショップ「yaora(やおら)」を運営。「美しい心とともにある良品」をテーマにセレクトしている。https://yaora.jp/
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです