(『天然生活』2022年6月号掲載)
香りに酔い、繊細な味のうつろいを楽しむ
台湾の茶藝館「小慢(シャオマン)」を訪ねたことでオーナーの謝(シャ)小曼さんと友人になり、2号店となる「京都小慢」の立ち上げから運営に尽力してきたという辰巳香織さん。
2年前に神戸・六甲へ住まいを移してからは、窓から海を眺めながらゆっくりお茶を飲むのが楽しみに。
「ひとりのときは手軽な碗茶(わんちゃ)。茶葉をひとつかみ碗に入れ、お湯を注ぎ足しながら一日中飲んでいます。また、コロナ禍の影響もあり、近所のお友達と自宅でお茶を飲む機会が増えました。ベランダで育てている梅のつぼみを杯に入れ、花茶にして季節のおもてなしをすることも。また、卓上で黒茶を煮出しておくと、お湯を継ぎ足しながらずっと飲めるんです。めいめいが飲みたいタイミングで自由に注げるから、会話が途切れることもなくリラックスできます」
中国茶は発酵の度合いにより、緑茶、白茶、黄茶、青茶(烏龍茶など)、紅茶、黒茶と6つに分類されているそう。
大根餅や胡椒餅(フージャオピン)などの点心には烏龍茶、朝食のトーストには黒茶など、組み合わせの妙も楽しめます。
急須にあたる茶壺(ちゃふう)を使ってていねいに淹れる際は、1煎目、2煎目、3煎目と杯を重ねつつ、繊細な味のうつろいを楽しみます。
茶器が手のひらにおさまるほど小さめなのは、杯を重ねるための、理にかなった形なのだとか。
「中国茶には堅苦しい作法もないので、まずは香りに酔い、好みの味を自由に楽しんで」と辰巳さん。
また、自然生態で栽培されているお茶は、茶殻も捨てることなく暮らしに役立つそう。
お店でも捨てずにピッチャーにためておき、水を注いで一晩おくことで、スタッフが飲むための水出し茶に。この「まかない茶」が驚くほどおいしいのだとか。
日によっていろいろなお茶を供するので、ブレンドされて一期一会の味が楽しめるのです。さらに、水出し後の茶殻を乾かして小袋に詰め、寝室や玄関の消臭サシェにすることも。
最近はお茶を通して人と人が自然につながり、その人の仕事や生き方をも変えてゆく不思議さを目の当たりにするのがとても楽しいという辰巳さん。
おおらかに楽しめる中国茶は、線となって縁を結び、新たな何かを生み出す力を秘めているのかもしれません。
辰巳さん流 「中国茶」の楽しみ方
プライベートでも中国茶を飲むという辰巳さんに、中国茶の楽しみ方を聞きました。台湾の甘いお菓子や点心のほか、トーストなどにも合うそうです。
ひとりの時間は碗茶(わんちゃ)をお供に
お茶碗に茶葉をひとつかみ入れ、お湯を注ぎ足しながら一日中、手軽に楽しめる碗茶。
「1煎目を底に少し残したところに次のお湯を注ぐことで、茶葉が少しずつ開いていきます。2煎目なら2煎目でしか味わえない香りや味を探っていくのが中国茶の醍醐味。味が急に変わらず、ゆるやかな線となって続いていくんです」
お茶請けとの、組み合わせの妙を楽しむ
碗茶のお茶請けには、豆花(トウファ)や、台湾のかりんとうにあたる麻花兒(マファール)といった甘いお菓子のほか、大根餅や胡椒餅などの点心を。
「台湾では~餅とつくものはおやつ。今日のような点心には、烏龍茶を合わせることが多いですね」。
台湾の茶藝館「小慢(シャオマン)」が扱うのは台湾の自然生態茶で、なかには阿里山の山頂付近でヴィーガンの家族が栽培する特別なお茶も。
忙しい朝には、卓上で煮出せる黒茶を
後発酵の黒茶は、卓上で煮出しておけるので忙しい朝に重宝。こっくりとしたまろやかな風味で、トーストとも好相性。
「お湯を注ぎ足しながら、2~3日は楽しめます。時間がたつほどに、とろみが出てきておいしいんですよ」。
お茶のストックは湿気を防ぐ静岡製の木箱に保存し、テイスティングしながら飲み頃を見極めます。
身近な植物で、うつろう季節を味わう
茶杯に形のよい茶葉と、ベランダで育てている梅のつぼみを入れ、白茶を注いで花茶に。
「お友達がくるとつい摘んでしまうので、なかなか花が咲かなくて(笑)」。
ほかにモクレン、コブシといった身近な花も、お茶にして楽しんでいるそう。
杯を重ねるとお花の香りも少しずつ変化し、その季節の光や風を口にふくんでいるよう。
〈撮影/わたなべよしこ 取材・文/野崎 泉 構成/鈴木理恵〉
辰巳香織(たつみ・かおり)
美意識あふれる台湾の茶藝館「小慢」の2号店、「京都小慢」の立ち上げから関わり、オーナーの謝小曼さんとともに中国茶の魅力を発信。スタッフとして教室や作家の展示会を運営するほか、飲食店のティーメニュー開発も手がける。
「京都小慢」公式インスタグラム:@xiaoman_kyoto
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです