• 自分は何が好きなのか、どうあることが自分の幸せなのか。一人で考えると行き詰まったり、出口がわからなくてつらくなったりするものです。そんなときにおすすめなのが、誰かと一緒に「対話」をして、考えを深めていく方法です。対話をするうちに、思いもよらない明日が見えてくるはずです。全国各地でさまざまな世代の人たちと「対話」を行う、哲学研究者の永井玲衣さんに、「対話」を始める前に知っておきたい、約束事と進め方についてお聞きしました。
    (別冊天然生活『暮らしのまんなか』vol.39掲載)

    まだ言葉にならないモヤモヤを話し合うための、約束事と進め方

    01_ふだんとは違う場をつくる

    対話は意識的な場所。制限時間を決めて、一緒につくるものです。

    友達同士の会話の流れで、「で、愛って何?」といった、とても哲学らしい話に深まっていくこともありますが、忙しい暮らしのなかで対話という時間をもつためには、「いまからそういう時間をもってみよう」と決めないと、流されて消えていってしまうものだと思います。

    つまり、対話とは場づくりそのもの。

    一緒に聴き合う場をつくろうと約束し合うことが、対話において最も大切です。もしわかり合えなかったとしても、お互いにわかり合おうとする、その試み自体が対話。

    私たちが生きている社会は、正解をいわなくてはいけなかったり、急いで答えを出さないといけなかったりします。そういうことでしんどい思いをしている人も多いと思います。だからこそ何を話してもいい場をつくることが大切なのです。 

    画像: 01_ふだんとは違う場をつくる

    02_事前に約束を決める

    だれかを傷つける言葉でなければ、何を話してもいいという場所をつくります。聴き合いたいと思ったら、事前に約束を確認するところからスタートして。

    約束というのは対話の進め方に近いので、どういう場にしたいか、お子さんや夫婦で話し合いをするときには、一緒に約束を決めるところから始めてもいいですね。

    実際に子どもたちと対話するときにどういう場にしたいかと聴くと、「黙っていても待っていてほしい」「最後まで聴いてほしい」「ちょっとふざけてもいい場にしてほしい」「わからないってたくさんいってもいい場にしてほしい」など、さまざまな声が挙がってきます。

    約束を毎回つくり合ってもいいと思いますし、そういう声を聴くところから、対話は始まると思っています。

    画像: 02_事前に約束を決める

    03_問いの出し方、決め方

    問いを考えようとすると、なかなか出てこないもの。ふだん聴き合う機会がないので出なくて当たり前です。

    問いはモヤッとしたり、イラッとしたり、心がグラッと動いたときに出やすいので、最近そんなことがあったかなと思い出してみましょう。

    私は手のひらサイズの問いを大切にしていて、日常のなかにある等身大の問いが好きです。

    どうでもいいといわれたり、バカにされてしまうかもしれない、日頃モヤモヤしていても押し殺してしまうようなものこそ、全部出してみて。そこから問いが始まります。

    切実なものもふと思いついたことも、問いに対して重い・軽いはありません。「これはちゃんとした問いだ」などと優劣はつけず、どれも尊重し、面白い問いとして受け取ります。

    04_問いを育てる

    対話の進め方にわかりやすい方法論はありませんが、「よいことをいおうとしない」「まとめようとしない」「結論づけようとしない」という、3つの〝しない〟を意識して。

    あえてひとつあるとしたら、問いを育てるということ。問いが出たときにその背景を聴いて、気になったところをさらに問いのかたちにしていきます。

    そうすると、問いが勝手にどんどん増えていきます。

    たとえば「何で子どもにすぐ、将来の夢を聴いてしまうんだろう」という問いからスタートしたとき、「そもそも将来の夢って何?」「将来の夢ってもたないといけない?」というように、問いが変化していくことを恐れない。

    むしろ変化をさせて、わかったふりをしていたことを見つけていくようなプロセスになります。

    一回で魔法のような時間ができるわけではなく、うまくいかないこともよくあります。習慣と回数が必要なので諦めず、次はどんな場にしたらいいかと考えていく。それ自体がとても大事だし面白いと思います。

    対話ってそんなに特別なことではなく、よく聴いてよく待ち、どんな意見もバカにしないことが、何よりも大切だと思います。

    〈構成・文/赤木真弓〉

    本記事は別冊天然生活『暮らしのまんなか』vol.39からの抜粋です

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    一冊を通してのテーマは、「大事なことをひとつだけ決める」。

    家事を全部がんばると、長続きしなかったり、途中で疲れてしまったり。 そんなときは、これだけは譲れない、という一番大事なことをひとつだけ見つけてみるのはいかがでしょう?

    ただし、「ひとつだけ」というところが難しい! 「ひとつ」をチョイスするということは、ほかを諦めるということです。 捨て去る勇気を持ったとき、 どうしても手放せない確かなものがきらりと輝きはじめます。

    本書では、紆余曲折しながら、暮らしのなかの大事なことをひとつだけ決めた12人を取材。 その結果手に入れた、無理せずラクに暮らしを回していくための収納と段取りの仕組みづくりを紹介しています。

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    永井玲衣(ながい・れい)
    哲学研究者。学校・企業・寺社・美術館・自治体などで、人々と考え合う場である哲学対話を幅広く行う。Gotch主宰のムーブメント「D2021」などでも活動。著書に『水中の哲学者たち』(晶文社)、連載に『群像』での「世界の適切な保存」(講談社)ほか多数。第17回「わたくし、つまりNobody賞」受賞。詩と植物園と念入りな散歩が好き。

    ※ 記事中の情報は取材時のものです



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