(『天然生活』2023年6月号掲載)
昔ながらの知恵を生かし森の恵みを楽しむ日々
深い木立に囲まれた大きな平屋。栃木県の益子町にあるこの家に、仁平里帆さんが夫の透さんと移り住んだのは3年前のことです。古民家を改装した住まいのあちこちには、古道具店を営む夫が集めた家具がしっくりとなじんでいます。
「森の中で暮らすのが昔からの夢でした。子どものころ、『14ひきの朝ごはん』など、いわむらかずおさんの“14ひき”シリーズを読んで憧れていたのも大きいかもしれません。竹を割ってコップにしたり、木いちごを採ってきて朝ごはんにしたり、本の中のねずみの家族の暮らしぶりは豊かで温かくて。森での暮らしに影響を受けたもののひとつです」
作者のいわむらかずおさんが暮らすのが益子であり、絵本で描かれる生態系がこの辺りのものだと知ったときは、うれしい偶然に興奮したのだとか。
いまでは仁平さん自身が竹を切って収納道具にしたり、近くに生えている草でおにぎりを包んだりと、森の恵みを日々の暮らしに取り入れています。
「身のまわりのものを大事にして最後まで使い切ると、自分自身を大切にしている感覚がもてて心地いいんです。とくに1歳の息子を育てているいまは、どうしてもあわただしくなりがち。だからこそ、あえてていねいに過ごす時間を少しでももつように心がけています。そうやって暮らしていると心が満たされるので、自然とむだ遣いをしなくなる気がします」
工夫
玉ねぎの皮で染める
料理に使った玉ねぎの皮もすぐには捨てません。煮出して染料をつくり、おくるみやふきんを染めて楽しんでいます。
「染料の温度や布をつけ込む時間によって色の濃淡が変わるのが面白くて。染めることで布の強度も増すんです」
玉ねぎの皮のほかに、近くに生えているヨモギや杉の葉などから染料をつくることもあります。
工夫
ものを最後まで使いきる
服や道具は顔がわかる人から買ったりもらったりすることが多い仁平さん。
「ものの向こう側にその人の顔が浮かぶ分、最後まで使いたいという気持ちも強くなります」
長く使ってこその趣も楽しみつつ、「自分がその道具や服だったとしたら、短期間で捨てられるよりも最後まで使ってもらったほうがうれしいだろうと思って」
工夫
身近にある植物を利用する
豊かな自然に囲まれた環境のなか、自生するさまざまな植物を暮らしに取り入れない手はありません。料理に活用するほか、ひと工夫加えて便利な道具に変身させることもあります。
「どんな植物かわからない場合は本で調べることも。季節ごとの植物を使うことで、その時季のエネルギーを暮らしに取り入れられる気がしています」
工夫
生ごみは捨てずにやぎのえさに
毎日の食事づくりで出る野菜くずは、仁平家で飼っている2匹のやぎのえさになります。
「それ以外のもので山に返せるものは、肥料として返すようにしています」
卵の殻は口の狭いびんの中を洗うときのために取っておき、梅干しの種はしょうゆに漬けて梅じょうゆに。日頃から、生ごみをすぐに捨てない工夫をこらしています。
<撮影/星 亘 取材・文/嶌 陽子>
仁平里帆(にへい・りほ)
「仁平古家具店」「pejite」を営む夫の透さん、息子の天音くんと3人暮らし。二十四節気や七十二候などの暦や月の満ち欠けを意識しながら家事や育児にいそしんでいる。里山での暮らしを暦とともに写真と言葉で綴ったインスタグラム@_______aunでは、土地の野菜を使った料理や保存食、自宅周辺の美しい自然が見られる。
※記事中の情報は『天然生活』本誌掲載時のものです